乳癌化学療法による骨密度・骨微細構造変化の検討
著者: | Sayaka Kuba, Ryuji Niimi, Ko Chiba, Megumi Matsumoto, Yuki Hara, Ayako Fukushima, Aya Tanaka, Momoko Akashi, Michi Morita, Eiko Inamasu, Ryota Otsubo, Kengo Kanetaka, Makoto Osaki, Keitaro Matsumoto, Susumu Eguchi |
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雑誌: | J Bone Miner Metab. 2024 Sep;42(5):591-599. doi: 10.1007/s00774-024-01526-2 |
- 乳癌
- 化学療法
- 骨微細構造
- HR-pQCT
HR-pQCTの前で 千葉先生、新見先生、久芳
論文サマリー
【背景】癌は治療の進歩により治癒が望める疾患となり、癌治療後の生活を支援するサバイバーシップが重要となっている。サバイバーシップを考えるうえで、癌治療関連骨減少症(CTIBL)による骨折を防ぐことは重要である。これまでに乳癌においては、CTIBLとしてアロマターゼ阻害剤によるCTIBLは広く知られている。また、閉経前女性において化学療法による化学閉経のためCTIBLが発症することは知られている。一方で、閉経後の女性において、間欠的なステロイド投与を伴う癌化学療法においては、DXAでの評価で骨密度の増加/減少、相反する報告がある。
【目的】間欠的なステロイド投与を伴う癌化学療法を受けた早期乳癌女性における骨密度と骨微細構造の変化をHR-pQCT(High Resolution peripheral Quantitative CT)を用いて明らかにする。
【方法】HR-pQCTは、非常に高い解像度(スライス厚 0.06mm)を有する四肢用のCTであり、骨微細構造を観察できる。対象は、乳癌に対して点滴の補助化学療法を行う閉経後女性。①DXA(Dual Energy X-ray Absorptiometry) 、②脛骨・橈骨の遠位部での HR-pQCT、③骨代謝マーカー(TRACP-5b、PINP)を、化学療法前、化学療法後、化学療法終了6か月後で測定を行った。
【結果】症例数は18例、年齢の中央値59歳(四分位範囲:55~62歳)であった。化学療法の治療期間の中央値は147日であった。ベースラインと化学療法後を比較すると、HR-pQCTにおける総骨密度(total volumetric BMD, Tt. vBMD)は脛骨遠位部で軽度であるが有意な減少を示したが(中央値 −1.5 %)、橈骨遠位部では有意差を認めなかった。DXAでは股関節(total hip)は軽度であるが有意な骨密度の減少を示した(-1.9%)。一方で、ベースラインと化学療法6か月後を比較すると、Tt. vBMDは脛骨遠位部(中央値 -4.5%)、橈骨遠位部(中央値-2.3%)で有意な減少を示した。DXAでは腰椎、股関節ともに-4~-5%の有意な骨密度の減少を認めた。Tt.vBMDの変化に関連する因子を検討したところ、脛骨遠位部において体重減少率と正の相関を認め(体重が減少するほどTt.vBMDも減少する)、化学療法終了6か月後のTRACP-5bと負の相関を認めた(TRACP-5bが高値であるほどTt.vBMDも減少する)一方で、橈骨遠位部においては相関を認めなかった。ステロイドの投与量やアロマターゼ阻害剤投与の有無とTt.vBMDの変化に相関を認めなかった。
【結語】早期乳癌のために化学療法を受けている閉経後女性は、荷重骨において有意な骨密度減少を認め、化学療法後6ヶ月でさらに減少した。
著者コメント
我々の予想と反した面白い結果を得られた。
- 橈骨遠位部の骨密度変化は軽度で、荷重骨で変化が大きかった。以前我々が行った、アロマターゼ阻害剤の検討では荷重骨・非荷重骨ともに減少があったことと相違を認めた。
- ステロイドの量と骨密度低下に相関が認められなかった。一方で、体重変化と骨密度の変化に相関を認めた。
- 化学療法期間中に骨密度は軽度低下し、化学療法終了後もその傾向は持続し、かつ骨密度低下の程度が大きかった。しかし後治療のアロマターゼ阻害剤使用の有無と骨密度変化は有意な関連を認めなかった。
以上から、化学療法に伴う骨密度の低下は、食事や活動量の低下に関連すると推測され、それが化学療法終了後も継続している可能性が示唆された。患者さんが癌治療後も元気で生活していくために、長期的な評価を行っていく必要があると考える。
(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 移植・消化器外科学 久芳 さやか)
2024年12月6日