薬剤関連顎骨壊死におけるスクレロスチン欠損の役割
著者: | Nakashima F, Matsuda S, Ninomiya Y, Ueda T, Yasuda K, Hatano S, Shimada S, Furutama D, Memida T, Kajiya M, Shukunami C, Ouhara K, Mizuno N. |
---|---|
雑誌: | Bone. 2024 Oct;187:117200. doi: 10.1016/j.bone.2024.117200. |
- 抗スクレロスチン抗体
- ロモソズマブ
- MRONJ
左から、水野智仁教授、筆頭著者中嶋良徳、宿南知佐教授、松田真司先生
論文サマリー
薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)は、デノスマブやビスホスホネート(BP)などの骨吸収抑制剤を服用している患者に見られる顎骨に関連した重篤な副作用の一つである。MRONJ発症の明確なメカニズムはいまだ不明である。骨粗鬆症治療でBP製剤が用いられる際には、MRONJ発症に対して抜歯などの観血的治療には慎重な対応が求められる。
ロモゾズマブは糖タンパク質のスクレロスチンの中和抗体で、骨形成促進と骨吸収抑制の2つ作用を持つ骨粗鬆症治療薬である。骨吸収抑制作用を持つことから、ロモソズマブにおいてもMRONJ発症が懸念されている。
しかし、ロモソズマブは、前述したようにBPとは異なる作用を持つことから、顎骨壊死発症に対する影響も異なることが予想される。寧ろ、スクレロスチンの機能抑制による強い骨形成促進作用がMRONJ発症を抑制する可能性があると筆者らは予想した。そこで筆者らは、スクレロスチンをコードする遺伝子SOSTを欠失させたマウス(SostΔ26/Δ26)を用いて、MRONJの発症にスクレロスチンがどのような影響を及ぼすのかを調べた。
まず、SostΔ26/Δ26マウスにおいて、脛骨のウエスタンブロッティングによりスクレロスチンの発現が完全に欠失しており、さらに免疫染色によって顎骨内でも部位特異的にスクレロスチンの欠失を確認した。その後、野生型(WT)マウスとSostΔ26/Δ26マウスそれぞれで抜歯し、1週間後に抜歯窩の治癒を比較したところ、両者ともONJの発症は認められなかった。しかし、HE染色による解析では、SostΔ26/Δ26マウスで有意に骨形成量が高いことが判明した。
次に、BP誘導のMRONJの発症に対するスクレロスチン欠失の機能を検証するために、WTおよびSostΔ26/Δ26マウスにMRONJを誘導し、検証した。具体的には、WTマウスおよびSostΔ26/Δ26マウスにBP投与と絹糸結紮による歯周炎を同時に誘導し、さらに抜歯を行うことでMRONJを発症させた。結果、WTマウスにBPを投与した群(WTBP群)ではMRONJの発症が視覚的に確認された、SostΔ26/Δ26マウスのBP投与群(SostBP群)およびBP非投与群(SostVeh群)では、肉眼的なONJ発症は確認されなかった。また、SostBP群およびSostVeh群の抜歯窩の骨形成量がWTBP群よりも有意に高いことがμCT解析で確認された。
さらに、骨形成関連タンパク質であるオステオカルシンとランクス2の発現を調べたところ、SostBP群、SostVeh群では、WTBP群と比較してこれらのタンパク質の発現量が高いことが判明し、より多くの陽性細胞が認められた。
次に、抜歯窩創傷治癒遅延がMRONJ発症に関与していることから、SostΔ26/Δ26マウスの歯肉線維芽細胞を分離し、創傷治癒アッセイを行ったところ、スクレロスチンの刺激によって濃度依存的に細胞遊走が抑制されることが示された。さらに、WTマウスとSostΔ26/Δ26マウスの抜歯窩における治癒速度を比較したところ、SostΔ26/Δ26マウスの方が顕著に早い治癒が確認された。これらの結果から、スクレロスチンの欠損が骨形成促進と歯肉の創傷治癒を促進することが示唆された。
以上の結果から、スクレロスチン欠失は、抜歯によるONJ発症だけでなく、骨形成促進と歯肉創傷治癒促進によりBP誘導性ONJ発症を抑制する可能性が示された。今後、より強いMRONJ発症モデルを用いることや、ロモソズマブ投与のMRONJ発症抑制の効果を検証することで、MRONJの治療法や予防法の開発が期待されると考える。
実験結果一部抜粋
著者コメント
ロモソズマブの添付文書には副作用としてMRONJが記載されていますが、単独服用による発症例について因果関係は不明です。そのため、スクレロスチンの機能とMRONJの関係を解明するため、広島大学口腔生化学、宿南知佐教授から提供されたSostΔ26/Δ26マウスを用いて研究を行いました。MRONJ研究は当講座では初めてであり、試行錯誤の末、スクレロスチン欠損が骨形成と歯肉創傷治癒を促しMRONJリスクの回避に寄与する可能性を示唆することができました。骨粗鬆症治療は長期にわたるため、薬剤のONJ発症に及ぼす影響の詳細な検証が医科歯科連携の促進に役立つと考えています。本研究が受理されるにあたって多くの先生方のご支援がなければ実現できませんでした。最後になりましたが、本研究を進めるにあたり、一から丁寧にご指導くださった松田真司先生をはじめ、宿南知佐教授、水野智仁教授、研究室の皆様に心より感謝申し上げます。
(広島大学大学院医系科学研究科 歯周病態学講座 中嶋 良徳)
2024年12月6日
広島大学大学院医系科学研究科歯周病態学講座一同 2024年日本歯周病学会にて