日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

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TOP > 1st Author > 菊池 毅

歯周炎はSTAMマウスにおける肝細胞癌を促進する。

Periodontitis promotes hepatocellular carcinoma in Stelic Animal model (STAM) mice.
著者: Ohno T, Kikuchi T, Suzuki Y, Goto R, Takeuchi D, Hayashi JI, Nishida E, Yamamoto G, Kondo S, Ono K, Nomoto S, Mitani A.
雑誌: Scientific Reports. 2024 Jul 30;14(1):17560. doi: 10.1038/s41598-024-68422-7.
  • 肝細胞癌
  • 実験的歯周炎
  • アンジオポエチン様蛋白質


左から三谷章雄教授、大野祐講師(筆頭著者)、菊池毅(責任著者)

論文サマリー

歯周炎は、歯周病原細菌により歯を支える歯槽骨の喪失を引き起こし、全身の健康に悪影響を及ぼす可能性のある口腔炎症性疾患である。歯周病は肝細胞癌を増悪させる可能性が報告されているが、その詳細なメカニズムは不明である。本研究では、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)-肝細胞癌モデルであるステリック動物モデル(STAM)マウスに実験的歯周炎を発症させ、病理組織学的および免疫学的解析を行った。歯周炎を発症させたSTAMマウスでは、歯周炎を発症させていないSTAMマウスに比べて肝細胞癌がより進行していた。歯周炎群STAMマウス肝臓において、腫瘍壊死因子α(TNFα)、マトリックスメタロプロテアーゼ-9(MMP9)、コラーゲン1、アンジオポエチン様蛋白質2(ANGPTL2)の遺伝子発現が非歯周炎群STAMマウスと比較し有意に増加していた。

ANGPTL2は 以前の報告で歯周炎と肝細胞癌それぞれの病態への関与が示唆されており、歯周炎群のSTAMマウスの歯周ポケット上皮では非歯周炎群のSTAMマウスと比較しANGPTL2発現がより増加していた。歯周炎群STAMマウスの血清中ANGPTL2レベルは、非歯周炎群STAMマウスよりも高い傾向にあった。STAMマウスに対するANGPTL2の腹腔内投与は、肝細胞癌をより進行させた。これらの結果は、ANGPTL2が慢性炎症の局在する歯周組織で産生され、血流を介して肝臓に移行し、蓄積して肝細胞癌の進行を促進する可能性を示唆している。

著者コメント

歯周医学(ペリオドンタルメディシン)の探究は、非常に複雑な解析となり、乗り越えるべき壁が大きく聳え立っています。今回、歯周炎とがんの関係性に着目し、局所の慢性炎症性疾患が肝細胞癌を進行させるという仮説を立証すべく、筆頭著者の大野祐(おおのたすく)先生を中心として、果敢にチャレンジを挑みました。実験の内情として、STAMマウスは生後2日齢時にストレプトゾトシン投与により20週齢時に100%肝細胞癌が発症しますが、非常に虚弱なマウスの為、繊細な取り扱いが必要であり、実験期間を通じて一瞬たりとも気の抜けない日々が続きました。今回明らかとしたのは歯周医学の一端ですが、今後も日本で2番目に患者数の多い疾患である歯周病の全身への影響を研究していきたいと思います。

(愛知学院大学歯学部 歯周病学講座 菊池毅)

2024年12月6日