日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

JP / EN
入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

1st Author

TOP > 1st Author > 小池 良直

脊柱後縦靱帯骨化症の遺伝的要因に関する新知見

Genetic insights into ossification of the posterior longitudinal ligament of the spine.
著者: Koike Y, Takahata M, Nakajima M et al.
雑誌: Elife. 2023 Jul 18;12:e86514. doi: 10.7554/eLife.86514.
  • 脊柱後縦靭帯骨化症(OPLL)
  • 全ゲノム相関解析(GWAS)


筆者(左)と高畑雅彦先生 / OPLL手術治療にも取り組んでおります。

論文サマリー

脊椎後縦靭帯骨化症 (OPLL)は、重篤な神経障害を引き起こす難治性の疾患である。その病因および病態はほとんどが不明なままである。OPLLは2型糖尿病 (T2D)や高肥満度 (BMI)との関係が注目されているが、因果関係は証明されていない。

我々は、OPLL患者2,010名を含む22,016人の日本人のゲノムデータを用いて全ゲノム相関解析 (genome-wide association study: GWAS)のメタ解析を行い、新規8 領域を含む14の有意なゲノム上の疾患感受性領域を同定した。これら新規領域にはTMEM135やWWP2など骨代謝に密接に関わる候補遺伝子が含まれていた。また、臨床画像を詳細に評価し、OPLLを頚椎型、胸椎型、その他の型に分類しGWASサブ解析を行い、サブタイプ特異的シグナルを同定した。その後、GWASデータを用いてgene-based association analysisを行い、3つ候補遺伝子を同定した。遺伝子調節データとの統合解析であるtranscriptome-wide Mendelian randomization解析を行い、さらに3つの候補遺伝子を同定した。ゲノム上の特定領域へのGWASシグナルの濃縮を評価するpartitioning heritability enrichment解析では、結合組織/骨組織細胞群 (特に軟骨分化細胞のH3K27ac)、および免疫/造血細胞群の活性エンハンサーにおいて、シグナルの有意な濃縮が観察された。マウスのアキレス腱骨化モデルから得られたアキレス腱構成細胞のシングルセルRNAシークエンスデータを用いた解析では、GWASおよびpost-GWAS解析で同定された候補遺伝子が間葉系および免疫系細胞において発現していることを確認した。96の複合形質データを用いてOPLLと他形質の遺伝相関解析を行なったところ、OPLLはT2DおよびBMIと正の遺伝相関、脳動脈瘤と負の遺伝相関を示した。形質同士の因果関係を評価するMendelian randomization解析では、高BMI(肥満)とOPLL、高骨密度とOPLLに有意な因果関係が示され、特にそれらの因果関係は胸椎OPLLで強いことが明らかとなった。遺伝的な疾患リスクを定量化する遺伝的リスクスコア (polygenic risk score: PRS)を用いて、OPLL各サブタイプへのBMIの影響を評価したところ、BMI PRSはOPLL発症に対し正の効果量を示し、その効果量は特に胸椎OPLLで強いことが示された

本研究によりOPLLと関連するゲノム上の疾患感受性領域、候補遺伝子が同定された。さらに、肥満、高骨密度とOPLLの因果関係が示された。本研究は、OPLLの病因と病態に関する新知見を提供し、将来の治療法開発の基盤となることが期待される。


OPLL全体を対象としたGWASメタ解析の結果

横軸が染色体位置、縦軸が解析対象となった全ゲノム領域のP値を示し、該当する染色体位置における関連の強さを示す。赤線がP値=5.0×10-8のゲノムワイド有意水準に該当する。赤、青はそれぞれ新規、既報のゲノム領域(合計14個)を示す。

著者コメント

本論文は2019年から2023年まで理化学研究所に出向し研究した内容をまとめたものです。共同筆頭著者である理化学研究所(理研)骨関節疾患研究チームの中島正宏先生、同チームリーダーの池川志郎先生が以前より手がけていたOPLL GWAS研究を引き継がせていただき、北海道大学整形外科の高畑雅彦先生が中心となり全国の先生方のご協力のうえ収集した新規DNAサンプルを加え、世界最大のOPLL GWAS研究を行う機会をいただきました。実際の解析では、理研ゲノム解析応用研究チームにお世話になり、チームリーダーの寺尾知可史先生を中心に多くの先生方からゲノム解析のノウハウを教えていただきました。研究開始時点では、恥ずかしながら大学教養時代の線形代数、統計学はすっかり忘れており、ドライ研究も全くの初心者でしたので、最初は特に苦労しました。このように初めは手取り足取り教えていただくような状況でしたが、4年間みっちりご指導いただいたおかげで、遺伝統計解析に関して理解を深めることができました。

本研究ではOPLLの新規疾患感受性領域の発見など様々な新知見を得ることができましたが、OPLL患者の特徴の一つである肥満と疾患との因果関係を示すことができたことは、特に重要な発見であったと思います。今後、実臨床の場で肥満傾向のあるOPLL患者への肥満治療介入に関して検討が必要だと感じております。

最後になりましたが、本研究では本当に多くの方々のご協力をいただきました。ご指導ご鞭撻を頂きました北大整形外科、理化学研究所の諸先生方、GWAS研究にご協力をいただいた、OPLL GWAS研究グループの先生方に心より感謝申し上げます。


ご指導いただいた池川志郎先生(左)、中島正宏先生(中央)、寺尾知可史先生(右)

(北海道大学整形外科 小池 良直)

2024年2月5日