日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

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マウス骨肉腫の進行におけるIL-17-IL-17RA axisの必要性

The IL-17-IL-17RA axis is required to promote osteosarcoma progression in mice
著者: Yoshimura N, Kariya R, Shimada M, Tateyama M, Matsunaga H, Shibata Y, Tanimura S, Takata K, Arima T, Kawakami J, Maeda K, Fukuma Y, Uragami M, Ideo K, Sugimoto K, Yonemitsu R, Matsushita K, Hisanaga S, Yugami M, Uehara Y, Masuda T, Nakamura T, Tokunaga T, Karasugi T, Sueyoshi T, Sato H, Iwakura Y, Araki K, Kobayashi E, Okada S, Miyamoto T
雑誌: Scientific Reports
  • 骨肉腫
  • IL-17
  • 炎症性サイトカイン

論文サマリー

[ 目的 ] 骨肉腫は悪性腫瘍の中ではまれであるが、最も一般的な悪性骨腫瘍である。磁気共鳴画像法などの診断装置や集学的治療の開発により骨肉腫患者の生存率は向上したが、5年生存率は70%で頭打ちとなっている。骨肉腫は局所炎症を促進することが多く、炎症性サイトカインとの関連性も報告されている。しかしながら、骨肉腫における炎症性サイトカインの役割は依然として不明である。マウス骨肉腫モデルであるAX細胞は、野生型マウスに移植すると移植局所および転移巣において類骨・異所性骨化からなる骨肉腫を形成し、全ての個体を腫瘍死させる。今回我々は、AX細胞を用いて骨肉腫と炎症性サイトカインであるIL-17との関連性を検討した。

[ 方法 ] 野生型マウス及びIL-17欠損マウスに対して、AX細胞を移植し予後を比較検討した。IL-17欠損マウスと野生型マウスとの間で骨髄キメラマウスを作成し、それぞれにAX細胞を移植し予後を比較検討した。また、AX細胞移植部位の腫瘍組織の免疫染色を行い、IL-17の起源細胞を特定した。AX細胞表面のIL-17レセプターの発現をフローサイトメトリーで解析した。IL-17を負荷したAX細胞の細胞増殖能及び骨分化能をMTTアッセイ、リアルタイムPCR、ウエスタンブロットで解析した。また、IL-17レセプター欠損AX細胞とIL-17レセプター欠損マウスを作成し、同様の解析を行った。

[ 結果 ] IL-17欠損マウスにAX細胞を移植すると、野生型マウスに移植した場合と比較し生存期間が有意に延長した。また、同細胞を各マウスの皮下に移植したところ、移植1か月時点での腫瘍サイズはIL-17欠損マウスで有意に小さかった。骨髄キメラマウスの実験では、IL-17欠損マウスの骨髄を移植したマウスの生存期間が有意に長く、免疫染色の結果と合わせてマウス骨髄由来のCD4陽性細胞がIL-17を発現することがわかった。フローサイトメトリー解析により、AX細胞がIL-17レセプターであるIL-17RAを発現することを発見した。IL-17を負荷したAX細胞は負荷をしていない場合と比較し、細胞増殖能に変化はなかったが、骨分化マーカーは遺伝子、タンパク質ともに発現が有意に抑制された。対照的にIL-17RA欠損AX細胞はIL-17負荷による骨分化マーカーの発現抑制を認めなかった。 さらに、AX細胞を移植されたIL-17RA欠損マウスの生存率は、AX細胞を移植された野生型マウスと同様であった。

[ 考察 ]マウスに移植されたAX細胞は、マウス骨髄を起源とするIL-17により骨芽細胞分化を抑制されることが示された。骨芽細胞分化を抑制されたAX細胞は未分化状態に維持され、結果として腫瘍の進行が促進されると考えられる。

[ 結論 ] IL-17は骨肉腫細胞を未分化状態に維持することで腫瘍形成に寄与する。IL-17は骨肉腫の新たな治療標的となる可能性がある。


a. AX細胞を腹腔内移植したIL-17欠損マウスは野生型マウスと比較し生存期間が延長した。
b. AX細胞を皮下移植したIL-17欠損マウスの腫瘍サイズは野生型マウスと比較し有意に小さかった。

著者コメント

近年、様々な悪性腫瘍の発症と炎症性サイトカインが関与していることが示されています。骨肉腫でも局所での炎症所見を呈することがある一方で、炎症性サイトカインとの関連性は依然明らかでありません。本研究はマウスにおける骨肉腫の進行を炎症性サイトカインIL-17が促進することを示唆しています。今後はヒト骨肉腫とIL-17を含めた炎症性サイトカインとの関連性を検討していければと考えております。本研究は、熊本大学整形外科関連施設と熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センター造血・腫瘍制御学分野に御協力いただきました。御協力を頂きました多くの皆様に改めて御礼申し上げます。

(熊本大学大学院生命科学研究部 整形外科学講座 吉村直人)