胸部CTにおける椎体骨CT値は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の転帰を予測する有用なバイオマーカーである
著者: | Azekawa S, Maetani T, Chubachi S, Asakura T, Tanabe N, Shiraishi Y, Namkoong H, Tanaka H, Shimada T, Fukushima T, Otake S, Nakagawara K, Watase M, Terai H, Sasaki M, Ueda S, Kato Y, Harada N, Suzuki S, Yoshida S, Tateno H, Yamada Y, Jinzaki M, Hirai T, Okada Y, Koike R, Ishii M, Kimura A, Imoto S, Miyano S, Ogawa S, Kanai T, Fukunaga K. |
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雑誌: | Bone. 2024 Jul;184:117095. doi: 10.1016/j.bone.2024.117095. Epub 2024 Apr 8. PMID: 38599262 |
- COVID-19
- 骨密度
- CT
論文サマリー
現在も世界的に感染が拡大しているCOVID-19の予後予測因子に関わる指標は数多く研究されており、画像検査により得られるパラメータに関しても研究が進んでいる。胸部CT画像における椎体骨CT値の低下は低い骨密度(BMD)を反映し、骨粗鬆症の診断指標として知られている。低BMDは慢性閉塞性肺疾患(COPD)や冠動脈疾患の予後と関連していると報告されているが、COVID-19の重症化に対する低BMDの意義は依然として議論がある。また、COPDや炎症性疾患は骨粗鬆症のリスクを上げるとの報告があるが、COVID-19が骨粗鬆症の発症リスクに与える影響はほとんど報告がない。本研究の目的は、日本人COVID-19患者におけるBMDと重大な臨床的転帰(Critical outcome)との関連を評価することである。
日本におけるCOVID-19大規模データベースである「コロナ制圧タスクフォース」を用いて、2020年2月から2022年9月の間に、4施設で臨床情報およびCT画像データが登録されたCOVID-19入院患者1,132例を解析対象とした。定量的なBMDの指標として、第4・7・10胸椎椎体部のCT値の平均を用いた。COVID-19の重症化に関連する高流量鼻カニュラ酸素療法、非侵襲的・侵襲的陽圧換気、体外膜酸素療法、死亡のいずれかのイベントが生じることを複合アウトカムとしてCritical Outcomeとした。Critical Outcomeに対するCT値の至適カットオフ値をROC解析により算出し、211HU以下を低BMDと定義した。また、入院3か月後のCT画像解析が可能な患者167例について、BMDの経時変化を解析した。
まず、低BMD患者の臨床的特徴とCritical outcomeとの関連を評価した。低BMD群には高齢、女性、やせ型患者が多く、重症化因子として報告されている併存症を有する割合が高かった。既知のCOVID-19重症化因子と併せて多変量ロジスティック回帰分析をすると、低BMDは既知の重症化因子と独立してCritical outcomeと関連していた。
さらに入院時と入院3か月後のBMDの経時変化に注目すると、Critical outcomeの有無によってBMDの変化量に有意差は認めなかったが、酸素投与を要した患者では、発症3か月後にBMDが有意に低下した。
以上より、CT検査で測定した椎体骨BMDの低下はCOVID-19の重大な転帰と関連し、COVID-19重症化予測の一助となる可能性を示した。また、呼吸不全患者では入院3か月後にBMDが有意に低下し、今後COVID-19後遺症との関連を検討する必要がある。
図1
図2
著者コメント
本研究では、COVID-19の重症化に関連する因子として椎体骨CT値により定義した低骨密度に注目し、経時変化と併せて臨床的特徴を評価しました。COVID-19診療において胸部CT検査は重要ですが、CT検査により得られる肺・肺外の画像解析パラメータが重症化予測に寄与しうることは興味深いと考えております。私達は呼吸器内科医としてCOVID-19の臨床・研究に携わっていますが、専門外である骨代謝領域で臨床・研究をされる先生方にこのような形で注目していただく機会をいただけたことを大変光栄に思います。最後に本研究をご指導いただいた先生方ならびにコロナ制圧タスクフォースに参加されている施設の先生方に改めて御礼申し上げます。
(慶應義塾大学病院呼吸器内科 阿瀬川 周平)