日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

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イグラチモドは骨細胞のERK/ EGR1/TNFα経路を介してRANKLとスクレロスチンの発現を抑制し不動性骨粗鬆症を改善する

Iguratimod suppresses sclerostin and receptor activator of NF-κB ligand production via the extracellular signal–regulated kinase/early growth response protein 1/tumor necrosis factor alpha pathway in osteocytes and ameliorates disuse osteoporosis in mice
著者: Taihei Miura, Yuki Etani, Takaaki Noguchi, Makoto Hirao, Kenji Takami, Atsushi Goshima, Takuya Kurihara, Yuji Fukuda, Nagahiro Ochiai, Takashi Kanamoto, Ken Nakata, Seiji Okada, Kosuke Ebina
雑誌: Bone. 2024. Feb 5:181:117026. doi: 10.1016/j.bone.2024.117026.
  • イグラチモド
  • 不動性骨粗鬆症
  • Early growth response protein 1


写真左:著者 写真右:著者(前列右)、蛯名耕介先生(前列中央)と、本研究に多大な貢献をして下さったラボメンバーの皆様

論文サマリー

関節リウマチなどの筋骨格系疾患では、骨へのメカニカルストレスの減少により不動性骨粗鬆症を併発することがある。骨細胞はメカニカルストレスを感知し、骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収のバランスの調整に重要な役割を果たしているが、骨細胞をターゲットとした骨粗鬆症治療薬はいまだ開発されていない。さらに、メカニカルストレスの減少は既存の骨粗鬆症治療薬剤の有効性を低下させることが報告されており、不動性骨粗鬆症治療には従来とは異なる治療戦略が必要と考えられる。抗リウマチ薬であるイグラチモドは関節リウマチ患者の骨代謝を改善し、骨量減少を抑制する可能性が報告されているが、その詳細な作用機序は不明であった。本研究では不動性骨粗鬆症へのイグラチモドの効果、特にその主因子である骨細胞への効果を検証した。

マウスの尾部を懸垂し後肢を免荷することで不動性骨粗鬆症を誘発し、イグラチモドの投与効果を検証した。その結果、イグラチモドは後肢免荷によるマウスの大腿骨の骨量低下を抑制した。また同マウスの組織学的解析で、イグラチモドは破骨細胞分化を抑制しながらも骨芽細胞分化を促進し、さらに骨細胞からのスクレロスチン発現を抑制することが明らかとなった。

In vitroではヒト臨床血中濃度(約3 μg/mL)相当のイグラチモドは既存の報告と異なり、NF-κB経路を阻害することなく骨細胞様細胞MLO-Y4細胞およびSaos-2細胞でのRANKLやスクレロスチンの遺伝子発現を抑制し、破骨前駆細胞との共培養で間接的な破骨細胞分化を抑制した。また、イグラチモドはスクレロスチン存在下でも骨芽細胞分化を促進した。そこでNF-κB経路以外のRANKLやスクレロスチン発現抑制メカニズムを解明するため、Saos-2細胞での網羅的遺伝子発現解析(RNA-seq)を行った。その結果、イグラチモド投与によりTNFαの発現を促進する転写因子であるメカニカルストレス関連因子early growth response protein 1(EGR1)の発現が低下していることを見出した。実際にマウスを後肢免荷することで、骨組織において血流の低下に起因すると考えられる酸化ストレスマーカー(ROS)と、その下流のEGR1とTNFαの発現が上昇していた。イグラチモド投与によりin vitroではROSの下流のERK1/2のリン酸化が抑制され、骨組織ではERK1/2の下流のEGR1とTNFαの発現が抑制されていた。さらにin vitroにおいてEGR1の過剰発現は、骨細胞におけるTNFα、RANKLおよびスクレロスチンの遺伝子発現を上昇させたが、これらはイグラチモドにより抑制された。反対にsiRNAによるEGR1の発現抑制は、骨細胞のRANKLとスクレロスチンの遺伝子発現を抑制した。

以上よりイグラチモドは後肢免荷による不動性骨粗鬆症において、骨細胞のERK/EGR1/TNFα経路を抑制することでRANKLとスクレロスチンの産生を阻害し、骨量を維持したと考えられた。イグラチモドは骨細胞を標的とした、不動性骨粗鬆症に対する新たな治療選択肢となる可能性が示された。


図:イグラチモドは骨細胞のERK/EGR1/TNFα経路を介して、スクレロスチンとRANKLの産生を阻害する。

著者コメント

イグラチモドは抗リウマチ薬として多くの関節リウマチ患者に使用され、骨粗鬆症の病態を改善する可能性があることが報告されていますが、その詳細な作用機序は不明でした。本研究ではイグラチモドが不動性骨粗鬆症の病態改善に有効であることを見出し、その効果機序の一端を明らかとすることができました。本研究成果が不動性骨粗鬆症を併発する関節リウマチ患者に対する治療の一助になれば幸甚です。最後になりましたが、本研究を実施するにあたり私を一から根気強くご指導頂きました、蛯名耕介先生をはじめとするラボメンバーの皆様にこの場をお借りして深く感謝申し上げます。

(大阪大学大学院 医学系研究科 整形外科 三浦 泰平 / 蛯名 耕介)

2024年7月23日