歯周炎発病過程の急性炎症進行期におけるIL-33/ST2経路の保護的な役割
著者: | Liu A, Hayashi M, Ohsugi Y, Katagiri S, Akira S, Iwata T, Nakashima T. |
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雑誌: | Nat Commun. 2024 Mar 28;15(1):2707. |
- 歯周炎
- IL-33/ST2
論文サマリー
歯周組織は歯肉、歯根膜、歯槽骨、セメント質からなる複合的組織であり、歯肉炎の段階では歯肉のみが影響を受けますが、歯周炎の病理過程においては連動的に破壊されることが知られています。しかしながら、歯周病の病因に関する既存研究の多くはマウス結紮誘導型歯周炎モデルを使用しており、技術的な制限から歯肉のみを解析対象にしているのに加え、骨破壊が発生する過程ではなく、発生した後の状態を推測的に分析しており、骨炎症性疾患である歯周炎の病態発生を部分的にしか反映できていませんでした。
そこで本研究グループは、炎症を惹起する範囲を広げる事により、歯肉、歯根周囲(歯根膜)、並びに歯槽骨組織の3部分へ安定して分離できるモデルを作成、経時的・組織別に炎症および破骨細胞分化関連の遺伝子発現を解析し、骨破壊が起こる直前の骨破壊始動期に焦点を当て分析を行いました。その結果、歯根膜組織においてIL-6およびRANKLの発現が顕著に上昇していたので、FACS法を用いてそれらを産生している細胞を分析したところ、両者ともThy-1.2陰性の線維芽/間葉系細胞であることが判明し、骨破壊の惹起において重要な役割を持つ可能性が示唆されました。
より網羅的にこの過程を解析するため、3組織に対しRNA-seq法による解析を行った結果、歯根膜組織においてIl1rl1の発現が顕著に上昇していました。Il1rl1はST2をコードし、IL-33のレセプター(mST2)として機能すると同時に、デコイフォーム(sST2)でも翻訳され、IL-33のアンタゴニストともなるマルチな遺伝子です。そこで、その作用がどちらによりもたされているかを検証するため、ST2とIL-33両系統のノックアウトマウスで歯周炎を惹起したところ、両系統のマウスにて同様の炎症性の骨破壊の増悪が見られたことから、mST2伝達するシグナルが重要であり、それは歯周炎発病過程の骨破壊始動期から急性炎症進行期にかけて保護的に機能することが判明しました。
そのメカニズムをより明確にすべく、mST2陽性細胞の組成を分析した結果、それらの多くはマクロファージ系の細胞であり(主に炎症促進のM1と炎症抑制のM2に分類される)、M1とM2両者の一部マーカーを同時に発現し、炎症惹起前より歯根膜組織に存在していた特殊性から、我々はそれらを歯周組織常在性マクロファージ(Periodontal Tissue-Resident Macrophage, PTRM)と定義しました。また、ノックアウトマウスと正常マウスを比較した際には、M1/M2比がM2の減少により2倍に上昇し、炎症促進の方向へと傾いており、好中球の増加と共に炎症性骨破壊の増悪に寄与している要因だと考えられました。
著者コメント
この研究は筆頭著者であるLIUANHAOくんが考案し、彼の本来の研究とは別に、学位論文用の別テーマとして始めたものでした。コロナや資金面などの客観的制限がある中でも、知恵と根性で困難を克服し、チーム一丸となり本研究を新しいテーマとして確立させた過程は良い思い出です。本研究で得られた成果は歯周炎の発病過程への理解を深化させたと同時に、既存の治療戦略を根本から変える新規治療法・予防法開発の基礎として後の創薬等にも役立つ事が期待され、学術的な価値だけではなく臨床的・社会的な意義も有します。また、本研究にご協力いただきました共同研究者の先生方には、この場を借りて厚く御礼申し上げます。
(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 Liu Anhao / 中島 友紀)
2024年7月23日