日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

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X連鎖性低リン血症性くる病の骨芽細胞系列における複合的異常:CRISPR/Cas9による遺伝子破壊により作製したヒトiPS細胞モデルの解析

Complex Intrinsic Abnormalities in Osteoblast Lineage Cells of X-Linked Hypophosphatemia: Analysis of Human iPS Cell Models Generated by CRISPR/Cas9-Mediated Gene Ablation
著者: Tatsuro Nakanishi, Miwa Yamazaki, Kanako Tachikawa, Ayu Ueta, Masanobu Kawai, Keiichi Ozono, Toshimi Michigami
雑誌: Bone 2024 Apr; 181: 117044. doi: 10.1016/j.bone.2024.117044.
  • iPS細胞
  • PHEX
  • CREB

論文サマリー

X連鎖性低リン血症性くる病 (XLH) は成熟骨芽細胞/骨細胞に発現するPHEX遺伝子の機能喪失を原因とする疾患である。骨からのFGF23の過剰産生が低リン血症およびビタミンD代謝の異常を引き起こす。XLHの研究にモデルとして広く使用されてきたHypマウスにおいては、FGF23の過剰産生に加えて骨芽細胞系列細胞の複合的な異常が存在することが推察されていた。しかしながら、患者の骨組織から解析に十分な量の骨芽細胞/骨細胞を得ることは倫理的、技術的に困難である。そこで本研究では、健常男性由来人工多能性幹細胞 (induced pluripotent stem cells: iPSCs) にCRISPR/Cas9によるゲノム編集を適用してPHEX欠損iPSCs の樹立を試みた。さらにPHEX以外は遺伝的に同質 (isogenic)なコントロールiPSCsと共に骨芽細胞系列に分化誘導して解析し、ヒトXLHにおける骨芽細胞系列細胞の内在的異常を明らかにすることを目的とした。

樹立したPHEX欠損iPSCsとisogenicなコントロール細胞を、βグリセロリン酸やデキサメサゾン、アスコルビン酸、レチノイン酸を含む骨芽細胞系列への分化誘導培地を用いて49日間培養した。興味深いことにPHEX欠損 iPSCs由来骨芽細胞系列細胞においては石灰化結節の増多、ハイドロキシアパタイト蓄積の増加を認めた。このことから、腎臓との相互作用が排除されリン供給が充分なin vitro条件下においてはPHEX欠損はむしろ石灰化を促進しうることが示唆された。この観察は、XLHでみられる異所性石灰化や腰椎骨密度増加を想起させる。一方、石灰化阻害物質である細胞外ピロリン酸はPHEX欠損 iPSCs由来骨芽細胞系列細胞で増加しており、組織非特異型アルカリホスファターゼの活性低下と関連していた。Ⅲ型ナトリウム/リン酸共輸送担体Pit1が減少しており、細胞外無機リン酸の増加を介して石灰化亢進に寄与したことが推察された。注目すべきことに、PHEX欠損 iPSCs由来骨芽細胞系列細胞においてはCREBのリン酸化が増強しており、副甲状腺ホルモン関連蛋白質 (PTHrP) 発現増加と関連していた。また、RUNX2をはじめ、SIBLINGファミリー蛋白であるOPN、DMP1など複数の発現が変化していた。さらに、FGFRシグナルの増強も明らかとなった。PHEX欠損 iPSCs由来骨芽細胞系列細胞においては、CREB経路の亢進がRUNX2の発現増加を介してOsteopontin やDMP1などさまざまな遺伝子の発現や石灰化能に影響を及ぼした可能性がある。本研究で得られた知見は、今後、XLHの新たな治療戦略の開発の一助となると期待される。


図1:PHEX欠損iPSCs由来骨芽細胞系列細胞における石灰化の亢進


図2:PHEX欠損iPSCs由来骨芽細胞系列細胞における複合的異常

著者コメント

大学院生として本研究を始めた当初、培養条件の至適化に難渋し、多くの時間をそこに費やしました。iPS細胞の扱いに慣れて骨分化誘導が上手くいくようになってからも、PHEX欠損骨芽細胞系列細胞における石灰化の増強と細胞外ピロリン酸の蓄積を認め、相反する結果に非常に頭を悩ませました。しかし、2つめのPHEX欠損クローンが樹立できて再現性のある結果が得られたことに加えて、先行論文のHypマウスのデータと一致していたことが、自分の解析結果を信頼できるきっかけとなりました。また、道上先生をはじめ研究室の皆様からの助言にも大変助けられました。今回このように、新たなXLHの病態メカニズムを提起することができたことは、これまでになされた多くの研究の積み重ねのおかげであると感じています。本研究が、今後新たな知見を得るための足がかりとなれば、幸甚です。

(大阪母子医療センター研究所 骨発育疾患研究部門 中西 達郎)

2024年7月23日