日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

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Bub1はTNFαを介した破骨細胞分化を抑制することでマウスの関節炎に伴う骨量減少を抑制する

Bub1 suppresses inflammatory arthritis-associated bone loss in mice through inhibition of TNFα-mediated osteoclastogenesis
著者: Yoshida S, Ikedo A, Yanagihara Y, Sakaue T, Saeki N, ImaiY.
雑誌: J Bone Miner Res. 2024 Apr 19;39(3):341-356. doi: 10.1093/jbmr/zjae015.
  • 関節リウマチ
  • 破骨細胞
  • Bub1

論文サマリー

関節リウマチ (Rheumatoid Arthritis: RA) は滑膜炎や骨破壊、全身的な骨量減少を特徴とする自己免疫疾患である。近年新たな抗リウマチ薬が登場しRA患者の疾患活動性は劇的に改善したが、未だに約20%の患者は疾患活動性を抑制できていない。さらにRA患者では骨粗鬆症が高頻度に認められ、骨折リスクが健常者と比較し約2倍となることが報告されている。従ってRA、およびRAに伴う骨粗鬆症治療のためにはRA病態の分子機構のさらなる解明とそれに基づく新規治療法の開発が必要である。

我々は滑膜炎組織において発現が顕著に上昇する遺伝子を同定するため、Gene Expression Omnibusに登録されているRA患者および関節炎モデルマウス由来滑膜炎組織のデータを用い、遺伝子発現プロファイルの再解析を実施した。その結果、Serine/Threonine kinaseとして知られるBudding uninhibited by benzimidazoles-1 (BUB1) の発現が各滑膜炎組織で上昇することを見出した。関節炎モデルマウス滑膜細胞より様々な細胞集団を単離後、Bub1の発現レベルを解析した結果、ミエロイド細胞がBub1を高発現することを見出した。そこで関節炎病態のミエロイド細胞におけるBub1の機能を解析するためミエロイド特異的Bub1欠損マウス (cKO) を独自に作製し、関節炎を誘導後、後肢の腫脹度合い、臨床スコアや骨破壊の度合いを評価した。その結果、いずれの指標においてもコントロール (Ctrl) とcKO間に有意差は認められなかった。一方で大腿骨の解析を行なったところ、cKOはCtrlと比較し有意な海綿骨の骨密度低下を示した。そこで組織形態学的解析を行なった結果、cKOではCtrlよりも破骨細胞数や破骨細胞面が有意に増加していることが見出された。続いてin vitroの解析として、骨髄マクロファージにRANKLを添加しRNA-seqおよびGSEAを行なった結果、cKOではNF-κBシグナルが濃縮されていることを見出した。そこで骨髄マクロファージにRANKLおよびTNFα、またはIL-1βを添加しNF-κBシグナルを活性化後、破骨細胞分化を評価した。その結果、cKOではCtrlと比較しIκBαのリン酸化が亢進し核局在するNF-κB p65の割合が有意に増加する結果、破骨細胞の形成が促進することを見出した。

以上の結果から、Bub1は骨髄マクロファージにおいてTNFα、IL-1βによるNF-κBシグナルの活性化を阻害し破骨細胞分化を抑制することで関節炎病態における骨量減少を抑制することが示唆された。

著者コメント

Bub1はこれまでmitosisを制御する因子として、主にがん領域で盛んに研究されてきたものの、関節リウマチとの関連はほとんど知られていませんでした。今回の研究ではBub1が関節炎病態における破骨細胞の分化に対し抑制的に関与することが明らかとなり、Bub1はRAよる骨量減少を抑制している可能性が示唆されました。今後、BUB1が関節リウマチに対する治療標的となりうるかについては更なる解析が必要ですが、これまでの研究をこのような形で報告することができ嬉しく思います。最後に、研究のご指導を賜りました今井祐記教授をはじめラボのスタッフの皆さま、支えていただいた家族、友人にこの場を借りて深く感謝申し上げます。

(愛媛大学大学院医学系研究科 病態生理学講座 吉田 周平)

2024年7月23日