細胞老化は大腿骨頭壊死症と関連するが、間葉系幹細胞培養上清液は骨圧潰を抑制する
著者: | Okamoto M, Nakashima H, Sakai K, Takegami Y, Osawa Y, Watanabe J, Ito S, Hibi H, Imagama S. |
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雑誌: | Sci Rep. 2024 Feb 9;14(1):3329. doi: 10.1038/s41598-024-53400-w. |
- 特発性大腿骨頭壊死症
- 細胞老化
- 間葉系幹細胞培養上清液
左より、渡邊純奈病院助教、酒井陽助教、岡本昌典(筆者)、中島宏彰准教授
論文サマリー
特発性大腿骨頭壊死症(osteonecrosis of the femoral head: ONFH)は、大腿骨頭の血流障害によって生じる阻血性骨壊死であり、壊死した大腿骨頭が圧壊することにより股関節機能が失われる疾患であるが、その病因は解明されていない。細胞老化は細胞増殖停止現象であり、老化細胞は炎症性サイトカインやケモカイン、細胞外マトリックス分解酵素を分泌するSASP (Senescent cells acquire the senescence-associated secretory phenotype)と呼ばれる現象がある。細胞老化とSASPは種々の疾患と関連が示されている。本研究では、1)ONFHと細胞老化の関与、2)細胞老化の制御による阻血性骨壊死の治療効果を検討した。
まずヒトONFHの細胞老化との関与を明らかにするために、手術時に摘出した大腿骨頭を検体と分析した。X-gal染色ではONFH骨頭内に帯状に強い青色に染まる層を認め、これはONFHの壊死層を囲む移行層に一致していた(図1)。対照的に変形性関節症の骨頭では認めなかった。健常層・移行層・壊死層の各部位で比較し、組織学的評価ではp16INK4a、H2AX、IL-6は健常層では認めないが、移行層と一部の壊死層で認めた。さらにSenescence-associated β galactosidase(SA-β-gal)は移行層において約7~9割に陽性細胞を認めた。遺伝子学的解析では、細胞老化関連遺伝子; p16INK4a, p21, p53とSASP関連遺伝子; IL-6は健常層と比較して壊死層だけでなく移行層でも多く発現をみとめた。これらよりONFHの壊死層のみならず移行層に老化細胞が蓄積していることを明らかにした。
図1:ヒト大腿骨頭のX-gal染色。特発性大腿骨頭壊死症の骨頭では帯状に青く染色された。
次に、阻血性骨壊死において細胞老化制御による治療効果を明らかにするために阻血性骨壊死マウスモデルを用い、阻血手術後24時間にDMEMまたは間葉系幹細胞培養上清液 (mesenchymal stem cell-conditioned medium: MSC-CM)を静脈注射した。阻血導入により増加したSA-β-gal陽性細胞はMSC-CM投与により減少した (図2)。さらに遺伝子発現でも、細胞老化関連遺伝子; p16INK4a, p19, p21, p53, RBとSASP遺伝子IL-6, MMP3の発現を抑制した。術後6週時のµCTでは阻血により骨量 (BV/TV) が減少し、骨端の圧壊が著明であったが、MSC-CM投与で骨量減少を抑制し骨圧潰を予防した。TUNEL染色では術後1週時点ではDMEM投与とMSC-CM投与でTUNEL陽性骨細胞に差は認めなかった。また骨梁のempty lacunaeは早期の術後2週までは差は認めないが、術後4週以降ではMSC-CM投与では低下した。これらからMSC-CMは阻血導入による細胞死を予防はしないが、細胞老化を抑制することが示唆された。以上の結果から、細胞老化が阻血性骨壊死の治療ターゲットとなりうると考えられた。
図2:阻血性骨壊死マウスモデルの細胞老化関連β-galactosidaseの蛍光免疫染色。MSC-CM投与により細胞老化関連β-galactosidase陽性細胞が減少した。
著者コメント
名古屋大学口腔外科教室から薬剤性顎骨壊死において細胞老化が関与し、さらに細胞老化を制御することで顎骨壊死を予防することが報告されています。私達は、阻血性骨壊死であるONFHにおいても同様に細胞老化が関与しているのではないかとの着想のもと本研究をスタートしました。研究の過程で私自身が一番印象的だったことは、骨頭をX-gal染色し翌日恐る恐る蓋をあけると、帯状に見事に青く色づいた領域を観察出来たことです。その時は教室の先生方に嬉々と見せて回っていました。ここで興味深いことはONFHの壊死層を取り囲む修復の最前線と考えられている移行層において細胞老化が表現されていたことでした。本研究では、仮説どおりに阻血性骨壊死と細胞老化の関与と、その制御によって骨圧壊を抑制したことを示すことが出来ました。このことは指定難病であるONFHの新しい治療ターゲットとなりうると期待しています。本研究に多大な御指導を受け賜りました整形外科中島宏彰准教授、口腔外科酒井陽助教をはじめとする共著者の先生方、当研究室の皆様にはこの場を借りて心より御礼申し上げます。
(名古屋大学大学院医学系研究科 整形外科・岡本 昌典)
2024年7月23日