高応力下での負荷方向に特化したアパタイト配向化と強度上昇:骨機能適応の新たな側面
著者: | Jun Wang, Takuya Ishimoto, Tadaaki Matsuzaka, Aira Matsugaki, Ryosuke Ozasa, Takuya Matsumoto, Mikako Hayashi, Hyoung Seop Kim, Takayoshi Nakano (Corresponding author) |
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雑誌: | Bone 2024 Apr, 181, pp.117024, doi: 10.1016/j.bone.2024.117024. |
- 骨機能適応
- 骨基質配向性(骨質)
- 異方性
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論文サマリー
本論文では、増大した応力負荷に対して、骨が、骨量のみならず骨アパタイトの結晶配向性(骨質指標の1つ)を上昇させることで力学機能を増強するという、骨機能適応の新たな側面を見出した。
アパタイト配向性は、骨中アパタイト結晶のc軸の配向方向とその度合いの情報を持つベクトル量である。著者らはこれまでに、① 骨の力学機能(強度)は、骨中のアパタイト結晶の優先配向方向と配向度によって支配され、アパタイト結晶のc軸が優先配向化した方向に骨は高強度を発揮すること、② in vivoでの主応力方向にアパタイトc軸が配向化することで、骨は応力を効率的に支持していること、を示してきた(Bone, 31 (2002) 479-487; JBMR, 28 (2013) 1170-1179 [http://www.jsbmr.jp/1st_author/89_tishimoto.html])。一方で、増大した応力負荷に対する骨の機能適応は骨量・骨密度の増加によって担われることが古くから知られているが、骨量・骨密度は「方向性」を持たないスカラー量であり、骨量・骨密度の変化では応力負荷方向に特化した効率的な強化はできない。
著者らは、増大した応力負荷に対する機能適応においても、骨本来の、アパタイト配向性に基づく応力負荷方向に特化した効率的な強化機構が存在するとの仮説を立てた。この仮説の実証のため、ラット尺骨のin vivo強制負荷モデルを用いた(図1A)。ラット尺骨に対し、長軸方向への2Hzの繰り返し圧縮荷重を、最大負荷荷重を3~15 Nまで変化させつつ1日10分間、8週間にわたり負荷し、その後の骨量、アパタイト配向性、ヤング率を解析した。生理的に負荷されるひずみが1000 με程度であるのに対し、この負荷により、440~3200 μεのひずみが骨表面に負荷した。
強制負荷により、負荷量依存的に骨表面に骨添加を生じ、負荷に対する骨量による適応現象が認められた(図1B)。一方で興味深いことに、新生骨部の骨密度は負荷量に対する依存性がなく、他方、骨長軸(=主応力方向)へのアパタイト配向度は強制負荷していない比較群より有意に高く、さらに負荷量依存的に上昇した(図2)。アパタイト配向度の上昇に比例して同方向のヤング率は上昇した。この発見は、骨が微細構造の方向性(異方性)を変化させ、応力方向に特異的に強化するメカニズムを持つことを示している。そのメカニズムは、応力感受を担うオステオサイトが応力の大きさのみならず方向性をも検出し、配向性を制御する機能(Calcif Tissue Int, 109 (2021) 434-444 [http://www.jsbmr.jp/1st_author/460_tishimoto.html]; Biomaterials, 279 (2021) 121203 [http://www.jsbmr.jp/1st_author/477_tmatsuzaka.html])に基づくと考えている。骨へのひずみがおおよそ3000 μεを超えると、wovenで低強度の骨が多量に形成した。これは、骨基質への微小ダメージの発生による骨再生様の反応であると示唆された。
図1 : A 骨機能適応の解明に用いたラット尺骨へのin vivo強制負荷モデルと、B 負荷量に依存した骨添加を示すカルセイン染色画像。
図2 : 応力負荷の増大に対する骨の適応的変化。骨量の増加も認められる一方で、応力負荷方向へのアパタイト配向性の上昇率は最も高く、さらに、これが負荷方向へのヤング率上昇をもたらす。アパタイト配向性の上昇による適応的変化は、生理的負荷からおおよそ3000 μεまでのひずみ範囲にて生じる。
こうしたアパタイトの配向性の変化による機能適応は、ほとんどの場合異方的である負荷に応答して、骨の強度を効率的に変化させるための骨の優れた戦略と言える。
著者コメント
骨が、負荷応力の増大に対して骨量・骨密度の変化でしか対応しないのであれば、強化が必要ない方向にも骨を強化してしまうことになる。このような「効率的でない」方法で骨が機能適応するだろうか?このような疑問に端を発した本研究によって、骨の新たな機能適用の戦略を見出すことができた。アパタイト配向性の変化は、骨の量を変えずして特定方向の強度を変化させることができる(配向性を変化させるためのモデリング・リモデリングは必要)ため、力学的環境の変化に対応する手段としては極めて合理的と言える。この新しい機能的適応様式の発見は、骨のメカノバイオロジーの理解や、整形外科および歯科インプラント設計の際の新たな方向性の策定に有益であると期待している。
(大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻 石本 卓也/中野 貴由)
2024年6月27日