日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

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CGRPは歯周組織の破壊・修復・再生に関与している。

Calcitonin gene-related peptide regulates periodontal tissue regeneration.
著者: Miki K, Takeshita N, Yamashita M, Kitamura M, Murakami S.
雑誌: Sci Rep. 2024 Jan 16;14(1):1344. doi: 10.1038/s41598-024-52029-z.
  • CGRP
  • RAMP1
  • 歯周組織再生

三木 康史
【研究室における写真】向かって左:筆頭責任著者 三木康史 / 向かって右:共同筆頭著者 竹下登

論文サマリー

CGRP(calcitonin gene-related peptide)は末梢神経終末から分泌される神経ペプチドで、37個のアミノ酸で構成されている。CGRPには、血管の拡張作用があり、局所の炎症反応に関与していると考えられているが、興味深いことに、骨形成を促進する作用があることが多く報告されている。しかしながら歯周組織におけるCGRP依存性の骨代謝に関する研究の報告は少ない。そこで本研究では、歯周組織の破壊・治癒過程におけるCGRPの役割を解明することを目的に以下の研究を行った。

本研究では、当研究室で樹立した硬組織形成細胞への分化能を有するマウス歯根膜細胞株MPDL22を用いた。CGRP刺激が歯根膜細胞の硬組織形成細胞への分化に及ぼす影響を検討した結果、CGRP刺激によりMPDL22において石灰化関連遺伝子の有意な発現上昇を認めた。また歯周組織の破壊・治癒過程におけるCGRPの発現動態をマウス絹糸結紮歯周炎モデルを用いて検討した。マウス上顎第2臼歯に5-0絹糸を結紮し、7日間飼育した後に絹糸の除去を行い、除去後さらに7日間飼育し、0, 3, 7, 10, 14日目に上顎骨のμCT撮影解析およびHE染色および抗CGRP抗体による免疫染色を行い組織学的に解析した。その結果、結紮3日目に急速な歯周組織破壊が誘導され、結紮部直下の歯根膜に顕著な炎症細胞浸潤および、CGRP陽性神経線維の消失を認めた。その後、結紮7日目には炎症部におけるCGRP陽性神経線維の顕著な増加・集積を認め、結紮10, 14日目にかけて、歯周組織の治癒・再生が進むとともに、増加していたCGRP陽性神経線維は減少し、ほぼ生理的な分布へ戻った。CGRP受容体構成タンパクであるRAMP1の遺伝子欠損マウスを用いて上記と同様の実験を行った結果、RAMP1遺伝子欠損マウスは野生型マウスと比較し、絹糸除去後の歯槽骨の回復に遅延を認めた。


図. μCT画像を用いた野生型マウスとRAMP1-/-マウスの歯周組織の破壊と治癒の検討
A. 結紮0、3、7、10、14日目の野生型マウス、RAMP1-/-マウスのμCT 像。
B. 黄色線で示したように、上顎第一臼歯の遠心根、上顎第二臼歯の近心根・遠心根、上顎第三臼歯の近心根の4根について、根中央部のセメントエナメルジャンクションから歯槽骨頂までの距離を計測し、その合計をTotal Bone Lossとして評価した。
C. 0~14日目における野生型マウス、RAMP1-/-マウスのTotal Bone Lossをグラフに示した(青:野生型マウス、赤:RAMP1-/-マウス、n=5、*:P<0.05、**:P<0.01、***:P<0.001)。

本研究により、CGRP刺激が歯根膜細胞の硬組織形成細胞への分化を促進することが明らかとなった。また、マウス絹糸結紮歯周炎モデルを用いた実験結果より、歯周組織の創傷治癒過程でCGRP発現が変動し、そのCGRPシグナルが歯槽骨の回復に重要であることが示唆された。よって、CGRPは歯根膜細胞の硬組織形成細胞への分化を促し、歯槽骨とセメント質のリモデリングに関与し、歯周組織における恒常性維持を担うとともに、炎症時には歯根膜においてその発現が上昇し、組織の修復に寄与している可能性が示唆される。

本研究結果は、歯根膜における神経が従来知られてきた末梢における感覚受容のみならず、歯周組織の恒常性維持や組織修復に重要な機能を果たしていることを示唆するものである

著者コメント

筆者は、大学院時代のテーマとして歯根膜神経とりわけ歯根膜特有の感覚受容器である歯根膜ルフィニ神経終末の発生に関する解剖学的、生理学的検索を行ってきた。その後歯周治療、歯内治療等の日常の臨床において歯根膜の神経は感覚受容だけでなく同部位における代謝や歯周組織の治癒・再生に何らかの役割をしているのではないかと考えるようになった。三叉神経節で生成されるCGRPが歯周組織における発現動態や骨代謝に関与しているとの結果が得られた。本研究結果は、歯根膜における神経が従来知られてきた末梢における感覚受容のみならず、歯周組織の恒常性維持や組織修復に重要な機能を果たしていることを示しており、全身的にも神経系が組織の恒常性維持や骨代謝に大いに関与していることが示唆される。

(大阪大学大学院歯学研究科口腔治療学講座 三木 康史)