日本骨代謝学会

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キヌレニンはヒラメにおいてカルシトニンの分泌を促進して,コルチゾルを低下させる

Kynurenine promotes Calcitonin secretion and reduces cortisol in the Japanese flounder Paralichthys olivaceus.
著者:Ikari T, Furusawa Y, Tabuchi Y, Maruyama Y, Hattori A, Kitani Y, Toyota K, Nagami A, Hirayama J, Watanabe K, Shigematsu A, Rafiuddin MA, Ogiso S, Fukushi K, Kuroda K, Hatano K, Sekiguchi T, Kawashima R, Srivastav AK, Nishiuchi T, Sakatoku A, Yoshida MA, Matsubara H, Suzuki N.
雑誌:Sci Rep. 2023 May 29;13(1):8700. doi: 10.1038/s41598-023-35222-4.
  • 海洋深層水
  • カルシトニン
  • 魚類のウロコ

鈴木 信雄

論文サマリー

 海洋深層水とは,水深 200 m 以深に存在する深海の海水のことを示し,低温状態で,豊富なミネラルや無機栄養分を含み,細菌数が少ないという特徴があります。また海洋深層水は,経験的に魚を含めた海産動物の生育を改善する効果があることから,飼育水等に利用されていますが,その科学的な根拠は明らかになっていません。

 そこで金沢大学の鈴木信雄教授と松原 創教授,富山県立大学の古澤之裕准教授,富山大学の田渕圭章教授,立教大学(前東京医科歯科大学)の服部淳彦特任教授と丸山雄介助教,公立小松大学の平山順教授を中心とした共同研究グループは,海洋深層水の魚類に対するストレス低減作用を調べました。即ち,大きな水槽で馴化したヒラメを能登海洋深層水飼育群と表層水飼育群とに分けて,狭い水槽で飼育するという密度ストレスをかけて,エサを1日1回与えて10日間飼育しました。ヒラメを狭い水槽に移す直前,飼育5日目及び飼育10日目に採血を行ってストレスホルモンであるコルチゾルを測定しました。その結果,表層の海水で飼育すると,血液中のコルチゾル濃度は上昇しますが,能登海洋深層水で飼育すると,コルチゾル濃度は上昇しないことが明らかになりました。また血液中のカルシウム濃度のみが低下して,カルシウム濃度を低下させるホルモンであるカルシトニン濃度が上昇することもわかりました。一方,能登の海洋深層水と表層の海水の組成を調べた結果,能登の海洋深層水にキヌレニンが特異的に存在することがわかりました。そこでキヌレニンがカルシトニンの分泌を促しているのではないかと考えました。その理由は,インドール化合物であるメラトニンが,ウロコの骨芽細胞の活性を促進して,カルシトニンの分泌を促すこと証明していることに因ります(Ikegame et al., J. Pineal Res., 2019)。そこで,同じインドール化合物であるキヌレニンが骨芽細胞に作用して,カルシトニンの分泌を促している可能性があると考えました。キヌレニンの作用を詳しく解析した結果,キヌレニンがウロコの骨芽細胞に作用して,カルシトニンの分泌を促していることがわかりました。また,人工海水にキヌレニンを添加して,ヒラメを飼育すると,血液中のコルチゾル及びカルシウム濃度が低下して,カルシトニン濃度が上昇することが判明しました。さらにヒラメの脳の網羅的解析により,カルシトニンが脳の視床下部の副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(corticotropin-releasing hormone: crh)及び脳下垂体のプロオピオメラノコルチン(pro-opiomelanocortin, pomc)の発現を抑制することもわりました。

以上のことから,能登の海洋深層水に含まれているキヌレニンがウロコの骨芽細胞に働き,カルシトニンをヒラメの血液中に分泌させ,そのカルシトニンがコルチゾルの分泌に関与する副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン及びプロオピオメラノコルチホルモンの発現を抑制することを証明することができました(図参照)。

鈴木 信雄

著者コメント

 能登の海洋深層水に特異的に存在するキヌレニンは,共同研究者の服部淳彦教授とインドール化合物であるメラトニンを研究してきたからこそ,見出すことができました。さらに数多くの研究者や学生の協力により実施できたキンギョのウロコを用いた宇宙実験により,メラトニンが骨芽細胞に作用して骨芽細胞で産生されるカルシトニンの分泌を促すことを証明していたので(Ikegame et al., J. Pineal Res., 2019),キヌレニンが骨芽細胞に作用してカルシトニンを分泌していることを明らかにすることができました。なお,ヒラメだけではなく,他の魚(メジナ)でも同様な結果(Ikari et al., Data in Brief, 2023)が得られております。さらに,無脊椎動物のスルメイカにも海洋深層水は生理的な効果があることを見出しております(Hatano et al., Sci. Rep., 2023)。スルメイカの脂質代謝を抑えて,体重の減少を抑制する作用があります。以上のように,これまでの研究をサポートしていただいた多くの共同研究者の先生に心から感謝の意を示すと共に,今後もご協力・ご助言をいただきながら,海洋深層水の海洋生物に対する作用を科学的に明らかにしていきたいと考えております。(金沢大学環日本海域環境研究センター・鈴木 信雄)