日本骨代謝学会

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メカニカルストレス応答分子Hic-5のノックダウンはMMP-13発現抑制を介してラットOAを改善する

Knockdown of mechanosensitive adaptor Hic-5 ameliorates post-traumatic osteoarthritis in rats through repression of MMP-13.
著者:Aya Miyauchi, Masahito Noguchi, Xiao-Feng Lei, Masashi Sakaki, Momoko Kobayashi-Tanabe, Shogo Haraguchi, Akira Miyazaki, Joo-Ri Kim-Kaneyama
雑誌:Sci Rep. 2023 May 8;13(1):7446. doi: 10.1038/s41598-023-34659-x.
  • OA
  • 軟骨細胞
  • 細胞外マトリックス

宮内 彩

論文サマリー

 メカニカルストレス応答アダプター分子であるHic-5は、細胞外マトリックスのリモデリングを介して様々な疾患の発症や進行を促進することをこれまで報告してきた。変形性関節症 (OA) は発症原因の1つが関節軟骨への過度なメカニカルストレス負荷であることから、以前OAとHic-5の関連について解析を行ったところ、Hic-5欠損マウスでは野生型マウスと比較してOAの進行が抑制された。そこで、Hic-5のOA新規治療標的としてのさらなる可能性を検討するため、OA発症誘導後のHic-5抑制による病態改善効果について検討を行った。

 まずOA患者の関節軟骨におけるHic-5の発現を蛍光免疫染色で比較したところ、健常者と比べてOA患者の関節軟骨ではHic-5の発現が増加していた。また、ヒト関節軟骨由来軟骨細胞に0.5Hz、10%の過度な伸展負荷を加えると、Hic-5およびMMP-13の発現が誘導されたが、Hic-5 siRNAを導入することで、伸展負荷によるMMP-13の発現誘導が抑制された。次にHic-5のヒト軟骨細胞における細胞内局在について検討するため、免疫細胞染色を行った。Hic-5は通常細胞接着斑に多く局在しているが、核と細胞接着斑をシャトルしていることが知られている。伸展負荷がない状態でHic-5は主に細胞接着斑に発現していたが、伸展負荷を加えることで核局在が観察された。さらに、核外移行を阻害するレプトマイシンB添加により、伸展負荷によるHic-5の核局在が増加したことから、Hic-5の核-細胞接着斑シャトルが伸展負荷により促進されることが見出された。核内においてHic-5は転写共役因子として機能するという報告があることから、次に軟骨細胞ではHic-5がMMP-13の転写制御に関与している可能性について検証した。核移行シグナル (NLS) を付加したHic-5の発現系を用いて、軟骨細胞でのMMP-13の発現を解析したところ、NLS-Hic-5導入によりMMP-13のmRNAおよびタンパク発現が増加していた。このことからHic-5は軟骨細胞においてMMP-13の転写制御に関与していると考えられた。最後にin vivoでのHic-5 siRNAによるOA治療効果を検証した。ラットに内側半月板切除術を実施することでOAを誘導し、術後10、13、16日後に関節腔内へHic-5 siRNAを投与した。術後19日後の膝関節をOARSI scoreで評価したところ、Hic-5 siRNA投与群ではvehicle群と比較してOARSI scoreが有意に低下していた。また、蛍光免疫染色像ではHic-5 siRNA投与群ではHic-5およびMMP-13の発現抑制が確認された。以上の結果から、Hic-5はOA病態の進展抑制に向けての治療標的として期待される。

宮内 彩

著者コメント

 金山先生の御指導の下、「Hic-5欠損マウスでは線維化やがん等、様々な疾患の発症や進行が抑制される」といった驚くべき現象を目の当たりにし、Hic-5がOAの治療標的にもなるのでは?といった期待を込めて本研究はスタートしました。結果として、Hic-5 siRNAの投与によりラットOA病態が改善されたことは大きな一歩であると感じております。現在、研究チームでHic-5阻害剤の開発にも取り組んでおり、実際に臨床応用・実用化に繋がるような治療モダリティの開発も進んでいます。本研究に御指導を賜りました金山先生をはじめとする共著者の先生方、その他多くの関係者の方々にこの場を借りて深く感謝申し上げます。(昭和大学医学部生化学講座・宮内 彩)