
骨透明化技術の開発(Osteo-DISCO)による骨内神経の3次元構造の可視化と除神経による骨恒常性変化の観察
著者: | Kurando Utagawa, Takaei Shin, Hironori Yamada, Hiroki Ochi, Satoko Sunamura, Aiko Unno, Chihiro Akazawa, Masatsugu Ema, Shu Takeda, Atsushi Okawa, Shingo Sato |
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雑誌: | Sci Rep. 2023 Mar 22;13(1):4674. doi: 10.1038/s41598-023-30492-4. |
- 骨組織透明化法
- Osteo-DISCO
- 感覚神経
論文サマリー
骨は人体における最大の臓器の一つであり、重力下において人体の形態を維持しいているのみならず、全身の恒常性にも重要な役割を果たしていると考えられている。これまで我々は、交感神経や骨内の感覚神経による骨代謝調節について報告してきた。しかし、従来の切片による2次元的な組織学的解析では、骨内の複雑な神経・血管構造や骨代謝との関係を十分把握することは困難であり、3次元的な解析が必要である。
今回我々は、新しい骨組織透明化法(Osteo-DISCO)を開発した(図1)。神経線維が緑色蛍光タンパク質Venusを発現するSox10-Venusマウスを用いて骨組織内の神経の詳細な観察を行ったところ、マウス長管骨では特定の一点から神経が侵入し、骨内で近位および遠位方向に投射する様子が確認された(図2)。一方で、血管内皮細胞が赤色蛍光タンパク質dsRedを発現するFlt1-tdsRedマウスを用いて骨組織内の血管の詳細な観察を行ったところ、血管の骨内への侵入点は多数あり、骨内の神経と血管は必ずしも伴走しないことも確認された。
続いて我々は、骨内に侵入する神経が当該骨の骨代謝に与える影響を検討するために、マウス脛骨内に侵入する神経を外科的に切離する除神経モデルを新たに確立し、骨透明化解析および骨量解析を行った。その結果、神経が切離された骨組織では骨内の神経形成が著しく低下し、骨形成の低下に起因する骨量の減少が確認された(図3)。また、神経が切離された骨組織では、骨欠損部における骨再生も障害されることが確認された。骨内の神経の70%以上は感覚神経であるという知見に基づき、脛骨内に侵入する神経を切離したマウスに、感覚神経分泌ペプチドであるCGRPの持続皮下投与を行ったところ、CGRPの投与により除神経による骨量減少は有意に抑制された(図3)。さらに、CGRPが骨芽細胞の活性や分化に与える影響についてマウス培養細胞を用いて検討したところ、CGRPの添加により骨芽細胞の活性は亢進し、骨形成が促進されることも明らかとなった。
以上から、骨内の感覚神経がCGRPを介して骨芽細胞活性を調整し、骨恒常性に重要な役割を果たしていることが示唆された。
著者コメント
今回、神経系による骨代謝調節機構について、視覚的にも非常に明確にその機能の一端を証明することができたものと考えています。私は整形外科医・脊椎外科医として日々、神経・骨とは密接に関わりつつも、以前はその両者の直接的な関係を深く考えることはあまりなかったように思います。大学院に入学した際、佐藤信吾先生にお声がけいただき、初めてその両者の関係性に興味を持ち、ほか2名の筆頭著者をはじめ多くの先生方・スタッフの方々に支えられてこのような成果を発表することができました。もっと早くこのような知見に出会っていれば、日々の診療の中でさらに多くの情報や課題を見つけることができたのにとの後悔もありますが、今後の診療に役立てていければと考えております。本論文は、当研究室が骨代謝における神経系の役割に着目して脈々と研究を続けてきた成果であり、このような機会を与えていただいた佐藤先生ならびに東京医科歯科大学整形外科学分野の先生方にこの場を借りて御礼申し上げます。(東京医科歯科大学大学院 整形外科学分野・歌川 蔵人)