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TOP > 1st Author > 遠藤 健太郎

酸化ストレスおよび炎症ストレスが軟骨細胞老化に及ぼす影響

Comparison of the effects of oxidative and inflammatory stresses on rat chondrocyte senescence.
著者:Misaki Yagi, Kentaro Endo, Keiichiro Komori, Ichiro Sekiya
雑誌:Sci Rep. 2023 May 11;13(1):7697. doi: 10.1038/s41598-023-34825-1. PMID: 37169906; PMCID: PMC10175275.
  • 細胞老化
  • 軟骨細胞
  • 変形性関節症

遠藤 健太郎
左写真:八木美咲さん 右写真:関矢一郎教授(左)と著者(右)

論文サマリー

 変形性関節症(OA)は、軟骨変性や滑膜炎を特徴とする関節疾患である。細胞老化はOAを含む加齢性疾患の病態進行に大きく寄与している。老化細胞は増殖停止状態にあるものの、ゾンビのように組織中に蓄積し続け、老化関連分泌形質(senescence-associated secretory phenotype: SASP)の獲得により大量の炎症性サイトカインやプロテアーゼを分泌する。OAにおいて軟骨細胞は多大な酸化ストレスや炎症ストレスに曝されているが、軟骨細胞老化におけるこれら個々のストレスの役割は不明である。本研究では、これらのストレスが軟骨細胞の老化に及ぼす影響を比較検討した。

 まずin vitroでの評価として、ラット軟骨細胞をH2O2あるいはIL-1βとTNF-α(IL/TNF)で処理した。どちらのストレスもsenescence-associated β galactosidase(SA-β-gal)の発現を有意に亢進させた。H2O2処理群では、細胞の大型化、細胞増殖の停止(G2/M arrest)、γ-H2AXおよびp21発現の上昇、グリコサミノグリカン(GAG)産生能の低下が認められた。一方IL/TNF処理群では、p16やSASP因子(MMP-13, ADAMTS-5, MCP-1など)の発現増加とGAG分解の促進が認められた(図1)。

遠藤 健太郎
【図1】In vitroでの評価 (A) SA-β-gal染色、(B) 老化マーカー発現

 続いてin vivo実験として、H2O2とIL/TNFをラット膝関節に4週間(週2回)注射した。H2O2注射群では、軟骨変性やSASPにほとんど変化は見られなかった。IL/TNF注射群では、軟骨変性が進行し、p16やSASP因子陽性の軟骨細胞の割合が増加した(図2)。

遠藤 健太郎
【図2】In vivoでの評価 (A) Safranin O染色、(B) 老化マーカー陽性細胞率

 以上の結果から、酸化ストレスと炎症ストレスが軟骨細胞老化に及ぼす影響は大きく異なることが示された。OA進行において特に重要なSASPの誘導については、酸化ストレスより炎症ストレスが支配的なドライバーであると考えられた。

著者コメント

 興味深いことに酸化ストレスと炎症ストレスは、OAでみられる老化軟骨細胞の様々な特徴をちょうど補完するように作用していました。OAにおいて両ストレスは協調的に細胞老化を促進すると考えられます。また同時に、老化軟骨細胞の表現型にheterogeneityが存在する可能性も示唆されます。
 本研究は筆頭著者である八木美咲さんの修士課程の研究テーマでした。修士の2年間で全てのデータを自分で取り、アクセプトまで漕ぎつけてくれました。八木さんおよび本研究の遂行をサポートしていただいた研究室の皆様方に心より感謝申し上げます。(東京医科歯科大学 再生医療研究センター・遠藤 健太郎)

1) Han P, et al. The role of ADAMTS6 and ADAMTS17 polymorphisms in susceptibility to lumbar disc herniation in Chinese Han population. Eur Spine J. 2023;32(4):1106-1114.