
ADAMTS17のコモンバリアントrs2054564は変形性脊椎症の発症に関与する
著者: | Taniguchi Y, Akune T, Nishida N, Omori G, Ha K, Ueno K, Saito T, Oichi T, Koike A, Mabuchi A, Oka H, Muraki S, Oshima Y, Kawaguchi H, Nakamura K, Tokunaga K, Tanaka S, Yoshimura N. |
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雑誌: | Sci Rep. 2023 Mar 25;13(1):4900. doi: 10.1038/s41598-023-32155-w. PMID: 36966180; PMCID: PMC10039864. |
- 変形性脊椎症
- GWAS
- ADAMTS17
左:著者、右:吉村典子先生
論文サマリー
変形性脊椎症は腰部脊柱管狭窄症や慢性腰痛などの基盤となる加齢性の変性疾患ですが、その発症要因はいまだによくわかっていません。本研究はゲノムワイド関連解析(GWAS: Genome-wide association study)を用いて、これまでにあまり報告のない変形性脊椎症に関与する疾患修飾遺伝子の同定を目指して行いました。
まず、世界にも類を見ない運動器コホートであるROAD studyのサンプルを用いてスクリーニングのGWASを行いました。疾患群を50歳以上で腰椎単純レントゲン写真の側面像で2椎間以上の椎間板腔狭小化があるケースと定義し、まず疾患群83例と東京大学の人類遺伝学教室が有していた臨床情報のない健常群182例でGWASを行い、65個の疾患修飾候補SNP(一塩基多型)を抽出しました。その後、この65個のSNPに対して、ROAD studyのサンプルを含む50歳以上の疾患群510例とコントロール群(腰椎レントゲンで椎間板狭小化なし)911例のサンプルを用いて相関解析を行ったところ、唯一rs2054564がゲノムワイド有意水準に達する変形性脊椎症の疾患修飾SNPであることが判明しました。(risk allele: C, P = 1.17 × 10-11, OR= 1.92)このSNPについては韓国コホートを用いた解析でも疾患との相関が再現され、本SNPが変形性脊椎症の発症に関与する疾患修飾SNPであることが確認されました。
今回同定したrs2054564はADAMTS17遺伝子座のintron 7に存在するSNPであったため、このSNPを含むADAMTS17が変形性脊椎症の発症に関与する疾患修飾候補遺伝子であるという仮説をたて、次にADAMTS17の椎間板における機能解析を行いました。ADAMTS17はfibrillinopathyと呼ばれるフィブリリンファイバーの機能異常に起因する疾患群の原因遺伝子の一つとして報告されており、これまでにFBN1遺伝子との相互作用が想定されることが過去に報告されていたため、ADAMTS17とFBN1の相互作用に着目して解析を行ったところ、ヒトやマウスの線維輪でADAMTS17とFBN1が共局在していることが確認され、またin vitroでADAMTS17が細胞外のフィブリリンファイバーの生合成を促進することが確認されました。(下図)
以上のことから、ADAMTS17が椎間板線維輪においてFBN1との相互作用を通じて椎間板の細胞外マトリックスの恒常性の維持に寄与している可能性が示唆されました。最後にFBN1の変異に起因するマルファン症候群の臨床症例のMRIを解析し、実際にマルファン症候群では有意に椎間板変性が生じやすいことをつきとめ、FBN1が椎間板の恒常性維持に重要な機能を有していることを示しました。
本研究は変形性脊椎症の発症や椎間板の恒常性維持においてADAMTS17—fibrillin networkという新たなシグナルの関与を示唆するものであり、本分野のブレイクスルーになることが期待されます。
著者コメント
今回の研究で幸運だったのが、ADAMTS17の機能としてFBN1との相互作用が想定されていることが多数報告されていたことです。私自身は脊椎外科を臨床の専門としており、所属している東大病院のマルファン症候群センターの整形部門の責任者として日常診療に携わる立場であったことからマルファン症候群の方の臨床データを多数有していたという偶然が重なりました。最後にFBN1の椎間板機能における重要性をヒトのデータで示すことができたのは論文に+αのインパクトを加えることができたのではないかと思います。
本研究は医局の先輩である阿久根徹先生が行っていた研究を引き継がせていただき、まとめたものです。私の遺伝統計学への理解の問題などもあり、アクセプトまで時間を要してしまいましたが共著者の先生方には大変お世話になり、ありがとうございました。とりわけ、折に触れてご相談にのっていただいた阿久根徹先生、遺伝統計学について一からご指導いただいた国立国際医療研究センターの西田奈央先生、大学院時代から分子生物学のご指導をいただいた斎藤琢先生、ROAD studyのコホートの構築および研究の土台となるサンプル採取やデータ構築を長くされてきた東大ロコモ予防学講座の吉村典子先生には特にお世話になりました。この場を借りて深く御礼申し上げます。(東京大学整形外科/手術部・谷口 優樹)
1) Han P, et al. The role of ADAMTS6 and ADAMTS17 polymorphisms in susceptibility to lumbar disc herniation in Chinese Han population. Eur Spine J. 2023;32(4):1106-1114.