
栄養による軟骨成長板幹細胞の制御機構の解明
著者: | Oichi T, Kodama J, Wilson K, Tian H, Imamura Y, Usami Y, Oshima Y, Saito T, Tanaka S, Iwamoto M, Otsuru S, Iwamoto-Enomoto M. |
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雑誌: | Bone Res. 2023 Apr 21;11(1):20. doi: 10.1038/s41413-023-00258-9 |
- 軟骨成長板
- 幹細胞
- IGF1シグナル
論文サマリー
軟骨成長板での内軟骨骨化により長管骨は成長する。近年、軟骨成長板静止層に存在する幹細胞が軟骨細胞を継続的に供給することが証明された。低栄養は骨成長障害を来す原因の一つであるが、一時的な低栄養状態が改善すると骨成長が加速するcatch-up growthと呼ばれる現象が起きる。しかし、軟骨成長板幹細胞が栄養の変化に対しどのように反応するか、およびその制御メカニズムは分かっていない。我々はAxin2CreERT2;R26RZsGreenマウスを用いた細胞系譜実験により、Axin2陽性細胞が軟骨成長板幹細胞集団を標識する事を明らかにした。次にAxin2CreERT2;R26RZsGreenマウスに7日間50%の食事制限の後、栄養を再開するcatch-up growthモデルを作成し、栄養が軟骨成長板幹細胞の動態に与える影響を調べた。食事制限により軟骨成長板幹細胞は自己複製を促進すると同時に増殖軟骨への分化を抑制し、結果として静止層に幹細胞が貯蓄された。次いで栄養を再開すると、貯蓄した幹細胞は速やかに分化を再開し、コントロール群と比べより多くの軟骨カラムを生成することで成長促進に寄与した。外部栄養による幹細胞制御メカニズムの詳細を調べるため、laser microdissectionおよびRNA-seqの手法で増殖層軟骨と比べ静止層軟骨に特異的に活性化しているシグナルを調べた。軟骨静止層ではIGF1/PI3Kシグナルが特異的に亢進しており、その強度は栄養状態にリンクして変動していた。さらにin vivoでの食事制限による幹細胞の分化抑制効果はrhIGF1投与によりキャンセルされた。以上から外部栄養は軟骨成長板幹細胞の自己複製および分化のバランスを制御し、IGF1シグナルが軟骨成長板幹細胞の増殖軟骨への分化を促進する作用を介してこの制御に関与していることを明らかにした(図)。
著者コメント
本論文は米国メリーランド州立大学整形外科、岩本資己先生のラボに留学中に行った仕事です。コロナ渦で5ヶ月ほど大学が閉鎖するなどもあり、留学して1年半ほどは全くデータも出ずに大変な思いをしましたが、アメリカという異国で思う存分研究に没頭でき、色々な研究者達とdiscussionできる環境に身をおけたことはその後の人生の大きな糧となっております。PIの岩本資己先生はもちろん、同じくメリーランド大学整形外科のPIの大鶴聰先生、岩本容泰先生、同じラボで苦楽をともにした小玉城先生(大阪大学整形外科)など多くの方々に心より御礼申し上げます。(帝京大学整形外科学講座・尾市 健)