日本骨代謝学会

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歯根膜のレプチン受容体陽性細胞は硬組織形成細胞に寄与する

Subset of the periodontal ligament expressed leptin receptor contributes to part of hard tissue-forming cells
著者:Hirotsugu Oka, Shinichirou Ito, Mana Kawakami, Hodaka Sasaki, Shinichi Abe, Satoru Matsunaga, Sumiharu Morita, Taku Noguchi, Norio Kasahara, Akihide Tokuyama, Masataka Kasahara, Akira Katakura, Yasutomo Yajima, Toshihide Mizoguchi
雑誌:Sci Rep 2023 Mar 1;13(1):3442. doi: 10.1038/s41598-023-30446-w.
  • レプチン受容体陽性細胞
  • 歯根膜幹細胞
  • 細胞系譜解析

岡 弘貢・伊藤 慎一郎
写真:溝口 利英 先生(左) 、岡 弘貢 先生(中) 、伊藤 慎一郎 先生(右)

論文サマリー

 【目的】 歯牙の顎骨への釘植には、正常な歯槽骨およびセメント質の維持が必要である。これら硬組織の形成には、歯根膜 (PDL) 幹細胞が寄与することが示唆されているが、その性状については良くわかっていない。近年、長管骨における骨格幹細胞のマーカー蛋白質であるレプチン受容体 (LepR) がPDL細胞の一部に発現することが報告された。そこで、本研究では、Cre/loxP技術を用いて、PDLにおけるLepR陽性細胞の硬組織形成細胞への寄与を検討することとした。

 【方法と結果】 LepR-cre; R26-tdTomatoマウス (LepR/Tomマウス) を作製し、上顎第一臼歯の凍結切片を共焦点顕微鏡で観察した。若齢期 (4週齢) のLepR/Tomマウスの歯牙根尖部のPDL血管周囲に、LepR-creでTom標識された細胞 (LepR+ PDL細胞) が確認でき、その細胞数は加齢とともに増加した。また、若齢期では、LepR+ PDL細胞のセメント細胞への分化は認められなかったものの、歯槽骨ではLepR+ PDL細胞由来のTom+ 骨細胞が確認された。一方、成体期 (4ヶ月齢) では、LepR+ PDL細胞由来の骨細胞に加えてセメント細胞もTom+ 細胞として認められ、その絶対数は週齢を追うごとに有意に増加した。さらに、LepR+ PDL細胞は抜歯窩修復骨における骨細胞にも寄与した。しかし、これら正常な硬組織および抜歯窩修復骨には、LepR+ PDL細胞に由来しないTom陰性の骨細胞も多く認められた (図1) 。そこで、PDLに含まれるLepR+ 細胞以外の細胞画分における幹細胞性の有無をスフェロイド培養実験系により調べた。その結果、セルソーターで分取したLepR+ とLepR PDL細胞の両者にスフェロイド形成能 (自己複製能) が認められた。さらに、これら両細胞画分はin vitro培養系において多分化能 (骨芽細胞と脂肪細胞) を示した。

岡 弘貢・伊藤 慎一郎
図1:LepR/Tomマウスの上顎第一臼歯の抜歯後2週の組織像
抜歯後の修復骨内の骨細胞にLepR/Tom+ 細胞(黄矢頭)を確認できたが、寄与率は低かった。

著者コメント

 本研究は、筆頭著者の岡 弘貢 大学院生(口腔インプラント学講座:旧所属)と、共同筆頭著者の伊藤 慎一郎 助教(薬理学講座)が主に取り組みました。本研究により、LepRが長管骨だけでなく、PDL においても硬組織形成細胞の幹細胞マーカーとなることが明らかになりました。また、PDLにはLepR+ 陽性細胞以外の幹細胞画分も存在する可能性が示され、硬組織形成細胞を供給する幹細胞画分がヘテロな性状を有することが示唆されました。リバイスに備えて、事前に遺伝子改変マウスを確保していたにも関わらず、より多くの匹数が必要となってしまい、査読者への返事には時間を要してしまいました。しかしながら、マウスの繁殖効率を上げる試行錯誤など、研究の経験値を向上させる貴重な機会となりました。本研究の遂行にあたりご指導、ご協力頂きました多くの皆様に、改めて謝意を表させて頂きます。(丸の内歯科・岡 弘貢、東京歯科大学薬理学講座・伊藤 慎一郎)