
エボカルセトは、二次性副甲状腺機能亢進症を伴う慢性腎不全モデルラットの皮質骨多孔化を抑制する
著者: | Tomoka Hasegawa, Shin Tokunaga, Tomomaya Yamamoto, Mariko Sakai, Hiromi Hongo, Takehisa Kawata, Norio Amizuka |
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雑誌: | Endocrinology. 164: bqad022, 2023 |
- 二次性副甲状腺機能亢進症
- 皮質骨多孔化
- カルシウム受容体作動薬
論文サマリー
慢性腎臓病(CKD)の合併症として知られる二次性副甲状腺機能亢進症(secondary hyperparathyroidism: SHPT)は、血清PTHや無機リン(Pi)、カルシウム(Ca)濃度の異常をもたらし、骨組織では線維性骨炎や皮質骨多孔化が認められる。特に皮質骨多孔化は骨脆弱性や骨折リスクを上昇させることから、適切なSHPT管理が骨代謝の改善や骨折リスクの低下につながることが期待される一方、これら骨病態のメカニズムには不明な点が多い。本研究では、CKD-SHPTに伴う骨病態のメカニズム解明、ならびに、血中PTH濃度低下作用を有するカルシウム受容体作動薬エボカルセトによる骨病態の改善効果を明らかにする目的で、5/6腎摘および高リン飼料給餌によってSHPTを誘導したモデルラット(CKD-SHPTラット)の解析を行った。
CKD-SHPTラットでは、血清PTH、Pi、FGF23濃度上昇およびCa濃度低下を示すSHPTが惹起され、線維性骨炎および皮質骨多孔化を呈していた。皮質骨では、骨細胞性骨溶解やPhex/SIBLING axisによる骨小腔の再石灰化抑制、TUNEL陽性骨細胞・骨細胞死が観察されるとともに、骨小腔の著しい拡大が認められ、これらを起点として皮質骨多孔化が生じる可能性が推測された。一方で、エボカルセトを投与したCKD-SHPTラットでは、血清PTH濃度が有意に低下し、骨細胞性骨溶解・骨細胞死数が低下するなど皮質骨多孔化が抑制された。
これらの骨細胞異常を誘導するメカニズムとして、CKD-SHPTラットの骨細胞がPTHR、FGFR1、Pit1/Pit2を発現していたことから、MLO-Y4骨細胞株を用いてPTH、Pi、FGF23添加実験を行うと、特にPiに反応して骨細胞性骨溶解やPhex/SIBLINGsの石灰化制御因子の遺伝子発現が上昇し、Pi濃度依存的に細胞死が誘導された。一方、PTHは、Pit1発現を上昇させ、Piによる骨細胞死を増悪させていた。
以上のことから、CKD-SHPTにおける皮質骨多孔化は、血中に過剰に存在するPTHとPiが相加的に作用することで誘導される骨細胞性骨溶解やPhex/SIBLING axisによる骨小腔石灰化抑制、骨細胞死によって生じる可能性が示唆された。また、エボカルセトは、血清PTH濃度を低下させることで、PTHとPiの相加作用を断ち切り、皮質骨多孔化を抑制する可能性が推察された。
正常ラットと溶媒/エボカルセト投与CKD-SHPTラット大腿骨のマイクロCT像と皮質骨の組織像(H-E染色、von Kossa染色)
CKD-SHPTラット大腿骨では、皮質骨多孔化や骨細胞性骨溶解などの骨病態が観察される。エボカルセトを投与すると、これら骨病態の改善が認められた。
本研究成果から想定される、CKD-SHPTラットでみられる骨病態の発症メカニズムとエボカルセトによる骨病態改善作用のメカニズム
著者コメント
カルシウム受容体作動薬であるエボカルセトは、SHPTを有する透析患者におけるPTH管理向上に寄与しますが、骨病態改善を解析した報告はほとんどありませんでした。今回の動物モデルを用いた報告でエボカルセトによる骨病態改善効果を見出せたことから、今後、同患者さんを対象としたエボカルセトの作用検証が進むことを期待しています。また、CKD-SHPTでの骨病態は、これまで見慣れた閉経性骨粗鬆症などの骨病態とは異なり、その組織像を観察する度に心躍る新たな発見の連続で、形態学研究の面白さ・奥深さを再認識することができました。
本研究を遂行するにあたり、ご協力を賜りました協和キリン株式会社 徳永 紳博士、酒井まり子博士、川田 剛央博士、また、いつもご指導頂いている網塚憲生教授、ともに研鑽を続ける山本知真也先生、本郷裕美先生をはじめ教室員の皆様にこの場をお借りしてお礼申し上げます。(北海道大学大学院歯学研究科口腔健康科学講座硬組織発生生物学教室・長谷川 智香)