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霊長類モデルにおける同種iPS細胞由来軟骨の関節軟骨欠損への生着

Engraftment of allogeneic iPS cell-derived cartilage organoid in a primate model of articular cartilage defect.
著者:Kengo Abe, Akihiro Yamashita, Miho Morioka, Nanao Horike, Yoshiaki Takei, Saeko Koyamatsu, Keisuke Okita, Shuichi Matsuda, Noriyuki Tsumaki
雑誌:Nature Communications volume 14, Article number: 804 (2023)
  • 関節軟骨
  • 同種移植
  • iPS細胞

阿部 健吾

論文サマリー

 関節軟骨は乏血行性のため、損傷すると自然修復をほとんど期待できない。限局した関節軟骨欠損を放置すると、周囲軟骨に変性を引き起こし、しばしば変形性関節症に至る。iPS細胞からは、品質の均一な移植用の軟骨をほぼ無限に作製できる。同種iPS細胞由来軟骨組織を関節軟骨損傷部に移植する治療法が研究開発されているが、その再生機序は不詳である。また、移植軟骨内の軟骨細胞は細胞外マトリックスに囲まれており、免疫細胞が軟骨細胞に接触しないため、同種移植でも免疫反応を起こしにくいと考えられるが、その詳細はわかっていない。軟骨欠損に対する同種iPS細胞由来軟骨移植の有用性と免疫反応を評価するため、ヒト白血球抗原と類似する主要組織適合性複合体(MHC)をもつ霊長類モデルを用いて実験した。

 EGFPを恒常的に発現する同種カニクイザルiPS細胞から軟骨を作製し、MHC不一致のサルの膝関節軟骨に作った欠損部位に免疫抑制剤を使用せずに移植した。移植後4週では、欠損が骨髄に達する骨軟骨欠損では移植物の直下でリンパ球が集簇し免疫反応をきたした。一方、欠損が軟骨内にとどまる軟骨内欠損ではリンパ球の集簇を認めなかった。軟骨内欠損では移植物が骨髄に曝露されないため、免疫反応が抑制されたと考えた。

 この結果を踏まえ、軟骨内欠損に対する同種サルiPS細胞由来軟骨移植試験を行った。同種iPS細胞由来軟骨移植群と移植を行わない軟骨欠損群を設定し、術後 4ヶ月で移植物の生着評価と免疫組織化学解析に加え、移植群の移植部組織と欠損群の欠損部修復組織を採取し、single cell RNA-sequence (scRNA-seq)解析を行った。移植群は欠損群に比べ、修復組織のサフラニンO染色陽性率が有意に高かった。欠損群はI型コラーゲン陽性の線維軟骨組織で修復された一方で、移植群はII型コラーゲン陽性の硝子軟骨組織で修復され、ホスト軟骨との癒合を認めた。抗GFP抗体による免疫染色で修復軟骨組織内の細胞のGFP発現を認め、移植組織が生着していることを確認した。scRNA-seq解析では、軟骨移植後組織のほぼ全ての細胞がCOL2A1を発現し、COL1A1を発現しなかった。また、移植後の軟骨表層にはPRG4発現が誘導され、SIK3による制御を示唆する結果を得た。霊長類モデルにおいて術後4ヶ月時点で良質な移植軟骨組織の生着と関節軟骨様構造を認めたことから、同種iPS細胞由来軟骨移植は軟骨内欠損に対する新たな治療選択肢となり得ると考えた。

阿部 健吾
図1_サル膝関節軟骨欠損に対する同種iPS細胞由来軟骨移植後の免疫反応(リンパ球集簇の評価)

阿部 健吾
図2_サル膝関節軟骨内欠損に対する同種iPS細胞由来軟骨移植後4ヶ月の組織像

著者コメント

 ヒトと免疫系が類似する霊長類を用いた本研究の成果により、同種iPS細胞由来軟骨による関節軟骨損傷の再生の有効性と作用機序が示されました。現在進行している同治療方法の臨床応用、実用化に向けた研究に貢献することが期待されます。
 本研究は、共著者の武井義明さんとゼロから動物実験系を立ち上げてスタートした研究であり、また多くの方々のお力添えがなければ成し遂げられませんでした。臨床への架け橋としての役目を全うできるよう、引き続き邁進したいと思います。ご指導いただきました妻木先生をはじめ、松田先生(京都大学整形外科)、沖田先生(京都大学iPS細胞研究所)、妻木研究室の皆様、その他多くの関係者の方にこの場を借りて深く感謝申し上げます。(大阪大学大学院医学系研究科組織生化学研究室・阿部 健吾)