
骨粗鬆症とサルコペニアは互いに相関し、IGF1 レベルの低下は超高齢者の両方の疾患のリスクとなる
著者: | Ryosuke Hata, Kana Miyamoto, Yukiko Abe, Takashi Sasaki, Yuko Oguma, Takayuki Tajima, Yasumichi Arai, Morio Matsumoto, Masaya Nakamura, Arihiko Kanaji, Takeshi Miyamoto |
---|---|
雑誌: | Bone. 2022 Sep 28:116570. |
- 骨粗鬆症
- サルコペニア
- IGF-1
論文サマリー
高齢者が寝たきりや要介護状態になる要因として運動器疾患が2割を占めており、特に要支援や要介護1といった軽度者においてその割合が大きい。85 歳以上の超高齢者における運動器障害の罹患率やこれらを予測しうるバイオマーカーに関する詳細な報告は少ない。そこで本研究ではサルコペニア、骨粗鬆症、脆弱性骨折の有病率や因子を同定することを目的とした。
2017年4月から2018年12月にかけて川崎市で実施したコホート調査に参加した「自立」もしくは「要支援1」の85〜89歳の高齢者1026名(男性513名、女性513名)を対象とした。骨粗鬆症、サルコペニア、脆弱性骨折の有無や各種バイオマーカーを評価した。
サルコペニア、骨粗鬆症、脆弱性骨折の有病率は各々、22.4、10.2、15.0% だった。血清IGF1 およびビタミンDレベルを示す 25(OH)D は、骨粗鬆症またはサルコペニアと有意かつ負の相関があった。骨粗鬆症とサルコペニアまたは脆弱性骨折は有意に関連しており、性別とBMIで調整後も、互いに関連する因子であることが示されたが、サルコペニアと脆弱性骨折は関連していなかった。
これまでに骨粗鬆症、サルコペニア、脆弱性骨折などの筋骨格疾患やバイオマーカーに関する様々な研究が報告されている。閉経後の女性ではグリシンまたはシスチンの低下や、ヒドロキシプロリンの上昇が、骨粗鬆症と相関したと報告されている。対照的に、高グリシンレベルは、ROAD研究の被験者における縦断的研究により、将来の骨粗鬆症発症のリスクとして示されました。サルコペニアに関しては、血漿C末端アグリン断片がサルコペニアの初期バイオマーカーとして報告された IGF1 は、骨基質タンパク質に保存されている骨リモデリング因子であり、骨形成を刺激する。動物モデルでは、成体における IGF1 遺伝子の全身欠失は、骨格筋の減少をもたらすが、骨量は減少しないことが示された。IGF1 は骨格筋の同化因子でもあり、血清 IGF1 の低下が骨粗鬆症とサルコペニアの両方のリスクであると考えられる。血清 IGF1 レベルは年齢とともに減少することが知られており、加齢に伴う骨および骨格筋の損失の原因となると考えられた。血清ビタミンDとIGF1レベルのモニタリングとそれらのレベルの維持は、高齢者の骨粗鬆症とサルコペニアの発症を防ぎ、これらの疾患による要介護化を予防する可能性が示唆された。なお本調査は横断研究であり健常高齢者の介護を必要とする危険因子を特定するためには今後の追跡調査が必要である。
著者コメント
骨粗鬆症とサルコペニアは年齢とともに増加しますが、将来の疾患の予測バイオマーカーは異なります。先行研究でグリシンの増加は、4年以内に将来の骨粗鬆症を予測すると報告されていますが、サルコペニアの発症を予測することはできません。一方、タウリンの低下はサルコペニアの発症と有意に関連しますが、骨粗鬆症とは関連していません。自験例においてIGF1 レベルの低下は、両疾患のリスクであり、IGF1レベルの維持が、高齢者の骨粗鬆症とサルコペニアの発症の予防となる可能性が示されました。
本研究の目的は運動器(ロコモ)の観点から、介護・要支援が必要な状況を把握した上で、効果的な介護予防の取り組みを調査することであり今後の追跡調査の結果が待たれます。
本研究にあたり、ご指導いただきました先生方に深く感謝申し上げます。(国立病院機構 埼玉病院整形外科・畑 亮輔)