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FAM20Cによるコンドロイチン硫酸の硫酸化構造変化が骨硬化症の発症に繋がる

Altered sulfation status of FAM20C-dependent chondroitin sulfate is associated with osteosclerotic bone dysplasia
著者:Toshiyasu Koike, Tadahisa Mikami, Jun-Ichi Tamura, Hiroshi Kitagawa
雑誌:Nature Communications | (2022) 13: 7952
  • コンドロイチン硫酸
  • Raine症候群
  • 骨芽細胞

三上 雅久・北川 裕之
写真左(左から北川、小池)、写真右(左から北川、三上、小池、研究室卒業生の結婚披露宴にて)

論文サマリー

 本研究で取り上げたRaine(レイン)症候群は、全身で骨硬化をきたす致死性の遺伝性疾患で、FAM20C遺伝子の変異が原因であることがわかっています。FAM20Cは、分泌タンパク質のリン酸化を担う生理的な酵素(カゼインキナーゼ)として世界的に注目を集めました。このことから、FAM20Cの変異は、バイオミネラル形成に関わる分泌タンパク質のリン酸化状態に影響を与え、骨硬化症状を誘発するというモデルが想定されました。

 果たしてそうなのでしょうか?私たちは、FAM20Cのファミリー分子であるFAM20Bが、硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)糖鎖の生合成起点となる橋渡し糖鎖構造中のキシロース残基に、リン酸基を転移するキシロースキナーゼであることをいち早く報告していました。そこで私たちは、FAM20Cが、FAM20Bと同様にGAG糖鎖のリン酸化や生合成に関与するという独自の仮説をたて、FAM20Cの生理的役割とRaine症候群にみられる骨硬化との関連を探る研究を進めてきました。

 本論文では、当初の期待通り、FAM20Cが、カゼインキナーゼとしての働きのみならず、上述のキシロースキナーゼ活性を有することを初めて明らかにしました(図)。一方で、FAM20Cには、硫酸化GAG糖鎖の代表格であるコンドロイチン硫酸の4-硫酸化を触媒する酵素(C4ST-1)と結合性を示し、その4-硫酸化活性を高めるという、予想だにしなかった新たな機能的側面があることも見出しました(図)。

 驚くべきことに、Raine症候群患者にみられる変異型FAM20Cは、キシロースキナーゼ活性を保持していましたが、C4ST-1との結合能が消失することがわかりました(図)。コンドロイチン硫酸の硫酸化は、主にC4ST-1による4-硫酸化とC6ST-1による6-硫酸化に大きく依存し、4-硫酸化と6-硫酸化の割合を示す4S/6S比でコンドロイチン硫酸の硫酸化状態を評価することができます。実際、変異型FAM20Cを導入したヒトの骨芽細胞株では、4S/6S比の顕著な低下が観察され、骨硬化につながるバイオミネラル形成が亢進することがわかりました。さらに、この変異型FAM20Cによって引き起こされる4S/6S比の低下を表現型にもつC6ST-1トランスジェニックマウスを解析すると、細胞や個体レベルのいずれにおいても見事に骨硬化様の特徴を示すことがわかりました。

 以上の結果から、FAM20Cの変異によって引き起こされるコンドロイチン硫酸の硫酸化バランス(4S/6S比)の破綻が、Raine症候群における骨硬化症状の発症の原因となっている可能性が示されました(図)。

三上 雅久・北川 裕之
本論文で明らかになったFAM20Cによるコンドロイチン硫酸鎖の生合成制御機構とその破綻による骨硬化様症状の発症との関連
コンドロイチン硫酸鎖は、グルクロン酸とN-アセチルガラクトサミンの二糖ユニットが繰り返し重合した硫酸化GAG多糖で、特定のコアタンパク質に橋渡し糖鎖構造を介して共有結合しています。コンドロイチン硫酸鎖の二糖ユニットは、様々な位置で硫酸化されることによって構造多様性を獲得し、この構造多様性が多彩な機能を発揮する原動力とされています(糖鎖構造中の2S、4S、6Sは、それぞれの糖残基の2位、4位、6位のヒドロキシ基が硫酸化されうることを、2Pはキシロース残基の2位のヒドロキシ基がリン酸化されうることを示します)。FAM20Cは、橋渡し糖鎖構造中のキシロース残基のリン酸化を担うだけでなく、C4ST-1の4-硫酸化活性を増大させる働きがあることがわかりました。変異型FAM20Cでは、後者の機能が選択的に破綻し、骨硬化様症状の発症に繋がるものと考えられました。

著者コメント

 本研究から、Raine症候群の発症メカニズムの一端が明らかになったのみならず、FAM20Cによって維持される正常なコンドロイチン硫酸の硫酸化バランスが骨組織の恒常性維持に重要であることが示唆されました。硫酸化糖鎖は、縁の下の力持ち的な存在であるがゆえ、硫酸化糖鎖にそんな大事な働きがあるの?という、懐疑的な見方もまだまだあるでしょう。本論文をきっかけに少しでもその存在意義に興味もっていただけることを願っています。FAM20Cのようなコンドロイチン硫酸の硫酸化バランスの制御因子の役割をさらに突き詰めてゆくことにより、硫酸化糖鎖をターゲットにした加齢性骨疾患の予防法や治療法の確立につながることが大いに期待されます。(神戸薬科大学生化学研究室・三上 雅久・北川 裕之)