日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 内田 泰輔

IκB kinase εは変形性関節症の病態に関与し軟骨変性を促進する

IκB kinase ε contributes to the pathogenesis of osteoarthritis by promoting cartilage degradation.
著者:Taisuke Uchida, Yukio Akasaki, Takuya Sueishi, Ichiro Kurakazu, Masakazu Toya, Masanari Kuwahara, Ryota Hirose, Yuki Hyodo, Hidetoshi Tsushima, Martin K Lotz, Yasuharu Nakashima
雑誌:Arthritis Rheumatol. 2022 Dec 18. doi: 10.1002/art.42421.
  • OA
  • IKKε
  • NF-κB

論文サマリー

 NF-κB シグナルは変形性関節症(OA)の病態形成に深く関与する因子であることがわかっている。先行論文でIKKεがNF-κBシグナルを活性化させ、炎症、癌、神経障害性疼痛を増悪させることが報告されている。我々はIKKεのOA病態形成における機能的関与およびその阻害剤であるBAY-985のOA新規標的治療薬としての可能性について研究を行った。

 まず、ヒトの正常およびOA膝関節組織におけるIKKεの発現を免疫組織化学染色にて比較したところ、ヒトOA軟骨でIKKεの発現は亢進していた(図1)。ヒト正常およびOA培養軟骨細胞においてもOA軟骨細胞の方がIKKεの遺伝子発現は上昇していた。OAにおいて重要な炎症因子である、LPS、IL-1β、TNFαでヒトOA軟骨細胞を刺激すると、IKKεの遺伝子発現は上昇した。

内田 泰輔
ヒトOA軟骨細胞においてIKKεの遺伝子発現をノックダウンしたところ、軟骨の変性に関与する炎症因子の発現が抑制された。続いて、IKKεの選択的阻害剤であるBAY-985をヒトOA軟骨細胞に作用させたところ、上記と同様の結果を得た。
逆にAdenovirusを用いてヒト正常軟骨細胞にIKKεを過剰発現させた結果、炎症因子およびNF-κBの転写活性は増加していた。さらにIKKεを過剰発現させた細胞にBAY-985を作用させると炎症因子およびNF-κBの転写活性の上昇はキャンセルされた(図2)。

内田 泰輔
野生型マウスに内側半月板切離および内側側副靱帯切離を行い、OAモデルを作成し、手術当日から5日おきに8週間BAY-985を膝関節内投与した結果、vehicle群に比べBAY-985投与群ではOAの進行が抑制され、疼痛過敏性も抑制されていた(図3)。

内田 泰輔
本研究よりIKKεはNF-κBシグナルを介し、異化反応を増悪させることで、軟骨の変性を増悪させることが示唆された。今後BAY-985はOAにおける新規標的治療薬となり得る。

著者コメント

 私自身、整形外科医として診療をしていく中で、変形性関節症の進行を抑えることができず、変性が進行していく患者さんを診てきました。再生医療についても研究されていますが、コスト的な面から一般的な治療にはなり得ないと考え、どうにか進行を抑えることができ、かつ、一般的な治療になりうる低コストを実現した治療薬を開発したいと考えていました。今回、その治療薬の候補となりうる研究を行えたことを誇りに思います。今後もOA治療薬の開発に精進して参ります。(九州大学整形外科・内田 泰輔)