日本骨代謝学会

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骨芽細胞由来Sema3Aはアンドロゲン非依存的に骨恒常性を制御する

Osteoblast lineage cells-derived Sema3A regulates bone homeostasis independently of androgens.
著者:Yu Yamashita, Mikihito Hayashi, Mitsuru Saito, Tomoki Nakashima
雑誌:Endocrinology. 2022 Aug 5:bqac126
  • Semaphorin3A
  • 骨芽細胞
  • アンドロゲン

山下 祐
左写真:左から山下(著者)、林准教授(共同第一著者)(東京医科歯科大学)
右写真:左から山下(著者)、斎藤教授(東京慈恵会医科大学)

論文サマリー

 骨芽細胞系列細胞が発現するセマフォリン3A(Sema3A)は骨吸収と骨形成を同時に制御する骨保護因子である。著者らは以前、Sema3Aの産生源として骨芽細胞や骨細胞の役割を報告し、エストロゲンが骨細胞に作用して産生されるSema3Aが骨細胞生存に関わることを見出した。しかしながら、エストロゲンと同じ性ホルモンであるアンドロゲンがSema3A発現に寄与するかどうかは不明であった。

 まず、Sp7-CreおよびBGLAP-Creを用いて骨芽細胞特異的にSema3Aを欠失させたマウスの腰椎と大腿骨における骨量とSema3a発現を検証した。Sp7-Creを用いて骨芽細胞特異的にSema3Aを欠失させたマウスでは、腰椎におけるSema3a発現に差はなく骨量は減少しなかった一方、大腿骨では有意なSema3a発現低下および骨量減少が観察された。また、BGLAP-Creを用いて成熟骨芽細胞特異的にSema3Aを欠失させると、大腿骨と腰椎の両方でSema3a発現が低下し骨量も減少した。この結果から、骨芽細胞由来のSema3Aは強力な骨保護作用を有すると考えられた。

 次に、著者らはアンドロゲンのSema3A発現に対する役割を検討するために、野生型マウスに対して精巣摘除術(ORX)を行ったところ、アンドロゲンの欠乏は血清中のSema3A発現に影響を与えないことを見出した。また、BGLAP-Creによる骨芽細胞特異的Sema3A欠損マウスに対するORXでも、対照群と同様の骨量減少を認めたことから、アンドロゲンはSema3Aの発現に関与しないことが示唆された。

 本研究は、骨芽細胞系列細胞由来のSema3Aが骨保護能力を有し、アンドロゲン非依存的に骨恒常性を制御していることを明らかにした。よってSema3Aの発現制御はエストロゲン固有のものであり、Sema3Aを標的にした治療法の開発は閉経後骨粗鬆症などの骨関連疾患の治療につながると考えられる。

山下 祐

著者コメント

 本論文を執筆するにあたり、最初は中島友紀教授に玉を取ってみないかと勧められたのがきっかけでした。整形外科医として筋・骨格を治療することに邁進してきましたが、大学院入学後、基礎研究を通して精巣の解剖に精通し摘除術を習得することになるとは、骨代謝の奥深さには感銘を受けました。本研究にあたり基礎研究を一から根気強くご指導頂きました中島教授、林准教授をはじめ、このような機会を与えてくださった東京慈恵会医科大学整形外科学講座の丸毛理事、斎藤教授、講座の方々に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子情報伝達学、東京慈恵会医科大学整形外科学講座・山下 祐)