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アバロパラチドは日本人骨粗鬆症患者の腰椎および大腿骨骨密度を増加させる:第3相ACTIVE-J試験

Abaloparatide Increases Lumbar Spine and Hip BMD in Japanese Patients with Osteoporosis: The Phase 3 ACTIVE-J Study
著者:Toshio Matsumoto, Teruki Sone, Satoshi Soen, Sakae Tanaka, Akiko Yamashita, Tetsuo Inoue
雑誌:J Clin Endocrinol Metab 2022 107:e4222-e4231 doi.org/10.1210/clinem/dgac486
  • 骨形成促進薬
  • アバロパラチド
  • 骨密度増加効果
  • 骨折防止効果

松本 俊夫
残念ながら共著者の先生全員とご一緒出来る機会がなく、田中栄先生とのみご一緒した際の写真です

論文サマリー

 骨粗鬆症治療薬は従来骨吸収抑制薬が主体であった。骨形成促進薬としては副甲状腺ホルモン1型受容体(PTH1R)作動薬のテリパラチド(TPTD, PTH1-34)が最初に開発され広く使用されて来た。最近、抗スクレロスチン抗体薬ロモソズマブ(Romo)が登場し主にモデリング依存性骨形成(MBF)促進を介する骨量増加作用により短期間で優れた骨折防止効果を示している。TPTDはPTH1Rと結合し骨吸収促進に引き続くリモデリング依存性骨形成(RBF)を主体とした骨形成促進により主に海綿骨で優れた骨量増加効果を発揮する。しかし骨形成促進作用は投与1年頃より減弱する一方骨吸収が増大するため皮質骨粗鬆化などの課題が指摘されて来た。

 新たに登場したアバロパラチド(ABL)は合成PTH関連ペプチド(PTHrP1-34)アナログで、一部のアミノ酸を改変しPTH1Rとの結合後短時間で乖離する特徴を有する。その結果、骨形成促進作用を保ったまま骨吸収促進作用が低減され、優れた骨量増加効果を発揮する。そして骨折リスクの高い閉経後骨粗鬆症女性を対象とした海外での第3相臨床試験(ACTIVE試験)の結果、優れた椎体・非椎体骨折防止効果が示された(JAMA 2016;316: 722)。しかし、わが国の重症骨粗鬆症患者における有効性の検証は行われていなかった。

 わが国における第3相臨床試験として高骨折リスクの日本人骨粗鬆症患者206名(閉経後女性186名、男性20名)を対象にABL 80μgまたはプラセボ(PBO)を18ヵ月間自己皮下注射後の腰椎(LS)骨密度(BMD)変化を主要評価項目とするACTIVE-J試験が行われた。試験終了時LS-BMDのPBO群との差は12.55% (95%CI, 10.3-14.8, p < 0.001)と有意の増加を示し、大腿骨近位部、頚部BMDも4%程度増加した。また骨形成マーカーPINP中央値は1.5ヶ月で約140%増加後に漸減したが終了時までPBO群より高値を維持し、骨吸収マーカーCTXは6〜12ヶ月後に約40%上昇したが14ヶ月以後にはPBO群と同程度に低下した。投与期間中ABL群では新規椎体骨折の発生はなかったがPBO群では4例(5.7%)に認められ両群間には有意差を認めた。試験期間中、安全性に問題となる有害事象は認められなかった。以上より、ABLがわが国の重症骨粗鬆症患者に対しても強力な骨量増加効果と骨折防止効果を短期間に発現することが示され、骨形成促進薬に新たな選択肢をもたらし骨粗鬆症治療の更なる進化に繋がることが期待される成績が得られた。

松本 俊夫
図1.腰椎、大腿骨近位部、大腿骨頸部の骨密度に及ぼすアバロパラチドの効果

松本 俊夫
図2.骨形成マーカーPINPおよび骨吸収マーカーCTXに及ぼすアバロパラチドの効果

著者コメント

 本臨床試験は、日本全国20箇所を超える施設の先生方のご協力により得られた臨床データを帝人ファーマ臨床開発部が集計した成績に基づき、BMD評価や画像解析は川崎医科大学・曽根照喜先生、データの解析評価は東京大学整形外科・田中栄先生とそうえん整形外科リウマチクリニック・宗圓聰先生が担当されたのに加え、帝人ファーマの山下晃子・杉本圭則・東由明氏らの全面的なご協力の下、浜松医科大学・井上哲郎先生と私が責任者として遂行されたものです。試験にご参加頂いた患者様には改めて御礼申し上げますと共に、試験の計画段階から貴重なご助言を頂きました故杉本利嗣先生には改めて深謝申し上げます。
 臨床試験の遂行には数多くの障害がありましたが、新たに国内で電動式注入器の開発に1年以上を要したのに加え、2021年3月に製造承認を取得したにも拘わらず、投与開始1年間は2週間を超える長期投与は不可との当局指示により2週間用カートリッジの作成およびその使用成績の承認にも多大な時間を要してしまい2022年11月に最終的に薬価収載されました。ご尽力およびご協力を頂きました多くの皆々様に改めて謝意を表させて頂きます。(徳島大学藤井節郎記念医科学センター・松本 俊夫)