
セマフォリン4Dは軟骨細胞を転写的に再プログラムすることにより、関節軟骨の破壊と関節の炎症を誘発する
著者: | Murakami T, Takahata Y, Hata K, Ebina K, Hirose K, Ruengsinpinya L, Nakaminami Y, Etani Y, Kobayashi S, Maruyama T, Nakano H, Kaneko T, Toyosawa S, Asahara H, Nishimura R. |
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雑誌: | Sci Signal. 2022 Nov;15(758):eabl5304. doi: 10.1126/scisignal.abl5304. |
- 関節軟骨
- セマフォリン4D
- 関節リウマチ
論文サマリー
関節リウマチや変形性関節症などの関節軟骨の破壊には、自己免疫、機械的刺激、老化などによって生じる炎症が関与します。炎症により活性化したリンパ球、マクロファージ、滑膜細胞などは、炎症性サイトカインを産生します。炎症サイトカインは、関節軟骨を破壊する細胞外マトリックス分解酵素の発現を誘導し、関節疾患の発症と進行に深く関与します。そこで本研究では、関節軟骨の破壊と炎症に関与する新規炎症性サイトカインの同定と分子作用機序の解明を目指しました。
炎症を誘導したマクロファージの培養上清に含まれるタンパク質を質量分析し、関節軟骨破壊作用を有するタンパク質を探索したところ、分泌型セマフォリン4D(Sema4D)を同定しました。Sema4Dは神経軸索ガイダンス因子であり、骨代謝・免疫系の制御にも関わることが知られていました。またSema4Dは関節リウマチ患者の滑液中で上昇することも報告されていましたが、関節軟骨に対する直接の作用は報告されておりませんでした。
関節軟骨に対するSema4Dの役割を調べるために、マウス関節軟骨表層細胞にSema4Dを作用させると、細胞外マトリックス分解酵素の発現が顕著に誘導されました。また、マウス関節軟骨器官培養にSema4Dを添加すると、関節軟骨組織が破壊されました。関節リウマチモデルでのSema4D濃度を調べたところ、関節組織液および滑液中でSema4Dの濃度が上昇していました。さらにSema4D欠損マウスは、関節リウマチモデルに対して抵抗性を示しました。これらの結果から、Sema4Dは関節軟骨破壊に関わることが明らかとなりました。
続いて、Sema4Dが関節軟骨破壊を誘導するメカニズムを調べました。多くの場合、Sema4Dは細胞形態の制御に関わるRhoを介してシグナル伝達を行いますが、Rhoシグナルを阻害しても、Sema4Dによる関節軟骨破壊のシグナルは止められませんでした。解析の結果、関節軟骨破壊を誘導するSema4Dシグナルは、Rhoを介さず、細胞膜から核へシグナルを直接伝達することで、関節軟骨破壊作用を誘導していることがわかりました(図)。また、このSema4Dの関節軟骨細胞内シグナルや遺伝子発現機構を遺伝子あるいは薬理的に阻害することで、Sema4Dによる関節軟骨破壊が抑制できることも見出しました。以上の結果から、Sema4Dは関節軟骨細胞に直接作用し、関節軟骨破壊を誘導する炎症性サイトカインとして機能することが明らかとなりました。
図 今回見出したSema4Dシグナル経路の模式図
Sema4DはPlexin-B2-TRAF2-NF-κBとc-Met-MEK-Erk1/2シグナルの両方を活性化させる。NF-κBはIκBζとC/EBPδを転写誘導し、Mmp13とMmp3の誘導に関与する。また、Sema4Dは Adamts4、Adamts5、Il6、Ranklを誘導する。Sema4DとIL-6は相乗的にMmp13とMmp3を誘導する。
著者コメント
スクリーニングでSema4Dが取れてきた時、あまり有力な候補とは考えていませんでした。理由は、Sema4Dは既に骨代謝・免疫・神経系での機能が知られており、軟骨への作用もあるとは想定し難かったからです。しかし、念のため、解析を行った結果、予想に反して、Sema4Dが軟骨破壊を誘導したのが、本研究の始まりでした。
今回見出したSema4Dの新シグナル経路は、Sema4DシグナルでメジャーなSema4D-Rho経路とは異なることから、この新シグナル経路を阻害すれば、副作用の少ない軟骨破壊抑制法に応用できるかもしれません。Sema4Dの新シグナル経路を創薬ターゲットとして、軟骨破壊に対する阻害薬の開発につなげたいと考えています。(大阪大学歯学研究科生化学教室・村上 智彦)