日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 日浅 雅博

骨芽細胞/骨細胞由来IL-11は骨形成と全身の脂肪形成を制御する

Osteoblast/osteocyte-derived interleukin-11 regulates osteogenesis and systemic adipogenesis
著者:Bingzi Dong, Masahiro Hiasa, Yoshiki Higa, Yukiyo Ohnishi, Itsuro Endo, Takeshi Kondo, Yuichi Takashi, Maria Tsoumpra, Risa Kainuma, Shun Sawatsubashi, Hiroshi Kiyonari, Go Shioi, Hiroshi Sakaue, Tomoki Nakashima, Shigeaki Kato, Masahiro Abe, Seiji Fukumoto & Toshio Matsumoto
雑誌:Nature Communications. 13: 7194, 2022
  • IL-11
  • 骨細胞
  • 骨芽細胞
  • 脂肪細胞

日浅 雅博
写真向かって左側 日浅 雅博、スライド内 董 冰子 (Bingzi Dong)、右側 松本 俊夫

論文サマリー

 運動は、力学的負荷により骨リモデリングを調節し筋力を維持するだけでなく、脂肪組織でのエネルギー消費を促す。これらの反応は、臓器間連関により同時かつ迅速に制御されている可能性がある。骨はミネラル恒常性やエネルギー代謝などを司る内分泌器官であることから、我々は骨が運動負荷に応答して脂肪組織やエネルギー代謝に関する情報伝達因子を分泌している可能性を想定した。

 インターロイキン(IL)-11 は、主に骨で発現し造血や癌の発生・進行、間葉系細胞分化など幅広い生物作用を持つサイトカインである。我々は、力学的負荷によりIL-11の骨での発現が増加し、Wntシグナルの促進を介して骨形成を誘導することを報告した。一方、IL-11は骨髄細胞の脂肪細胞分化を抑制することが知られており、運動負荷に反応して骨から分泌されるIL-11が、運動による骨リモデリングと脂肪代謝の制御に関わる因子である可能性が考えられた。しかし、その生理的役割を明確に示す成績は得られていなかった。

 そこで、まず全身性IL-11欠損(IL-11-/-)マウスを作成し解析を行なった。対照マウスと比較し、IL-11-/-マウスは骨形成指標の低下と骨量の減少を示した。また、IL-11-/-マウスの骨ではWntシグナル抑制因子Dkk1, 2, Sclerostinの発現が亢進しており、骨芽細胞のWntシグナルは抑制されていた。さらにIL-11は骨芽細胞のIL-11受容体αを介してSTAT1/3のリン酸化を促進し、HDAC4/5の核移行を増加させることで、RanklやOpg発現に影響を与えることなくWnt抑制因子の発現を抑制することが明らかとなった。尾部懸垂後の再負荷時の骨形成反応もIL-11-/-マウスではWntシグナルの抑制と共に低下していた。以上より、IL-11-/-マウスの骨量低下にWnt抑制因子の発現亢進を介したWntシグナルの抑制による骨形成の低下が関与することが示された。驚いたことに、IL-11-/-マウスでは脂肪組織のWntシグナルも抑制されており、骨髄脂肪のみならず内臓脂肪、皮下脂肪を含む全身脂肪組織の増加と耐糖能低下を示すことが判明した。そこで、IL-11-/-マウスの骨形成低下と脂肪組織増加が、骨と脂肪の何れ由来のIL-11発現の低下によるものかを明らかにするため、骨芽細胞/骨細胞特異的IL-11欠損(osteocalcin-Cre;IL-11fl/fl)と脂肪細胞特異的IL-11欠損(adiponectin-Cre;IL-11fl/fl)マウスを作成した。その結果、前者ではIL-11-/-マウスと同様に血清IL-11濃度が低下し、力学的負荷に反応する骨形成の低下や全身脂肪組織の増加がみられた一方、脂肪細胞特異的IL-11欠損マウスでは異常は認められなかった(図1、2)。以上の成績から、骨芽細胞/骨細胞由来のIL-11が力学的負荷に応答して骨形成と全身脂肪代謝の両者を制御することが明らかとなり、運動負荷と骨粗鬆症や肥満との関係を理解する上で重要な知見となった。

日浅 雅博
図1. IL-11fl/fl対照マウス、Ocn-Cre;IL-11fl/flおよびApn-Cre;IL-11fl/flマウスの大腿骨のマイクロCT画像。Ocn-Cre;IL-11fl/flマウスにおいて著しい骨量減少を認める。

日浅 雅博
図2. 通常食(RD)と高脂肪食(HFD)摂取下でのIL-11fl/fl対照マウス、Ocn-Cre;IL-11fl/flおよびApn-Cre;IL-11fl/flマウスの腹部CT画像。

著者コメント

 本研究は董冰子先生(現青島大学附属病院内分泌科)が徳島大学留学中にIL-11全身欠損マウスで脂肪組織の異常を見出した成績に端を発し、これを発展させて組織特異的IL-11欠損マウスの解析により結論まで到達することが出来ました。マウスの高脂肪食飼育実験には大西幸代さん、メカニズムの詳細な解析では比嘉佳基先生に多大な尽力を頂きました。改訂作業で幾多の難題を指摘され挫けそうにもなりましたが、松本俊夫先生をはじめ多くの先生方に支えて頂いたおかげで何とか採択まで漕ぎ着けました。この場をお借りして深く御礼申し上げます。(徳島大学大学院口腔顎顔面矯正学分野・日浅 雅博)