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マウスの骨格筋におけるAktの欠損はosteosarcopeniaと寿命の短縮をもたらす

Deletion of skeletal muscle Akt1/2 causes osteosarcopenia and reduces lifespan in mice.
著者:Takayoshi Sasako, Toshihiro Umehara, Kotaro Soeda, Kazuma Kaneko, Miho Suzuki, Naoki Kobayashi, Yukiko Okazaki, Miwa Tamura-Nakano, Tomoki Chiba, Domenico Accili, C Ronald Kahn, Tetsuo Noda, Hiroshi Asahara, Toshimasa Yamauchi, Takashi Kadowaki, Kohjiro Ueki
雑誌:Nature Communications | (2022) 13:5655
  • インスリン
  • 糖尿病
  • 老化

笹子 敬洋

論文サマリー

 下等生物ではインスリン作用が低下すると寿命が延びますが、ヒトでのインスリン作用の低下は糖尿病につながるなど、哺乳動物におけるインスリンと老化との関連については、議論が続いていました。中でも筋肉の老化現象であるサルコペニアは、糖尿病で多いことが知られていますが、詳しい仕組みは分かっておらず、またサルコペニアが骨にどのような影響を及ぼすかも明らかではありませんでした。

 我々はまず野生型マウスでの解析から、加齢マウスの筋肉ではインスリン抵抗性が、インスリンシグナルの下流の鍵分子であるAktのレベルで引き起こされることを見出し、そのモデルとして骨格筋特異的Akt欠損マウスを樹立しました。このマウスは加齢と共に、全身のインスリン抵抗性、及び骨格筋量と運動機能の低下などの表現型を呈し、これまでほとんど知られていなかったヒトのサルコペニアの良いモデルと考えられました。

 骨格筋における老化現象が他の組織にも波及する可能性を考え、骨格筋と密接な関連がある組織として骨に着目したところ、このマウスでは大腿骨の重量が減少していました。CTでの解析から、海綿骨の骨密度が低下しており、また骨粗鬆化が進行していることも分かりました。骨形態計測では、破骨細胞面に変化がなかった一方、骨芽細胞面が減少傾向で、骨形成率は有意に低下していました。このような骨の変化は、筋量の減少が十分明らかでない若週齢でも認められましたが、初代骨芽細胞の分化自体には異常がありませんでした。

 更にこのマウスでは寿命が短縮しており、死因を解析したところ、半数は衰弱死でした。筋肉における1つの酵素がないだけで、全身の老化が進み、死因まで影響を受けることは、興味深い現象と考えられました。このマウスの寿命は、カロリー制限や、過栄養のモデルである高脂肪食負荷を行なっても、やはり短縮していました。

 Aktの欠損によってその下流のFoxO経路は活性化されますが、このような骨格筋特異的Akt欠損マウスの表現型は、Aktに加えてFoxOを欠損させたマウスではほぼ消失し、骨量減少や骨粗鬆化も認めませんでした。一方で、Aktの欠損によって活性が抑制されるmTOR経路を活性化すると、骨格筋の表現型は部分的に改善したものの、骨の表現型には改善が見られませんでした。

 このことから下等生物での定説とは逆に、哺乳動物の筋肉でインスリン作用が低下すると老化が進み、寿命の短縮にもつながることが分かり、また糖尿病でサルコペニアが多い理由として、FoxOの作用が重要なことも明らかになりました。更には骨格筋由来の何らかのマイオカイン、ないし代謝産物が骨形成を正に制御し、かつそれがFoxO経路による制御を受けることが示唆されました。

笹子 敬洋
まとめ:インスリンと老化の関連に関する仮説(プレスリリースより)

著者コメント

 当初は骨格筋でのインスリン作用に着目した研究でしたが、骨への影響も見られることが分かり、東京大学の田中栄先生(整形外科)や高柳広先生(免疫学)を初めとする先生方に、骨形態計測や初代骨芽細胞の分化誘導などについて指導をいただきながら、お蔭様でまとめることができました。高齢化に伴いサルコペニアや骨粗鬆症の重要性は増しており、また両者を合併した糖尿病は日本人に多く、そのような病態をより正確に把握し、また治療薬の創出につながるような研究になったのではないかと思います。ただ特に骨格筋と骨の間を何が結んでいるのか、それがマイオカインなのか代謝産物なのかは、まだ明らかにできておらず、今後の重要な検討課題と考えております。(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科・笹子 敬洋)