日本骨代謝学会

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手術誘導した変形性関節症モデルの病態において、Runx2とRunx3は関節軟骨に異なる役割を果たす

Runx2 and Runx3 differentially regulate articular chondrocytes during surgically induced osteoarthritis development
著者:Kosei Nagata, Hironori Hojo, Song Ho Chang, Hiroyuki Okada, Fumiko Yano, Ryota Chijimatsu, Yasunori Omata, Daisuke Mori, Yuma Makii, Manabu Kawata, Taizo Kaneko, Yasuhide Iwanaga, Hideki Nakamoto, Yuji Maenohara, Naohiro Tachibana, Hisatoshi Ishikura, Junya Higuchi, Yuki Taniguchi, Shinsuke Ohba, Ung-Il Chung, Sakae Tanaka, Taku Saito
雑誌:Nat Commun. 2022 Oct 19;13(1):6187. doi: 10.1038/s41467-022-33744-5.
  • Runx2
  • Runx3
  • 破骨細胞

永田 向生

論文サマリー

 Runx1, Runx2, Runx3からなるRunxファミリーはRuntドメインを共有する転写因子である。特にRunx2は軟骨細胞肥大分化において中心的な役割を果たす。これまで当ラボからは、Runx1が変形性関節症に保護的に作用することを軟骨細胞特異的なノックアウト(cKO)マウスを使って示してきた(Yano. SciRep, 2019)。Runx2は変形性関節症に対しては破壊的に作用するとされ、過剰発現マウスでは変形性関節症が進行した報告がある(Catheline. JBMR, 2019)。Runx2cKOマウスでは変形性関節症が抑制されたと報告されたが、KO効率が50%程度であった(Liao. SciRep, 2017)。しかも同じラボからRunx2を抑制すると、軟骨組織を構成する最も重要な基質タンパクであるCol2a1の発現も低下すると報告された(Liao. Cellular Physiol, 2018)。Runx2の関節軟骨への働きはまだ不明な点もあり、またRunx3についてcKOマウスを用いた報告はこれまでになかった。

 本研究では、まず野生型マウスに内側半月板と内側側副靱帯を切除する手術モデルを行い、Runx3や軟骨構成タンパクの発現誘導に必須の転写因子であるSox9やCol2a1は低下するが、Runx2は維持されることを示した。これは軟骨細胞へ軟骨変性に関わる代表的な炎症性サイトカインであるIL-1βを投与するin vitroの実験系でも再現できた。

 続いてRunx3の関節軟骨全層及び最表層のcKOマウスを検討し、複数の手術モデルで変形性関節症が進行することを確認した。Runx3は軟骨深層で保護因子のAcanを、最表層でPrg4を誘導しうることをin vivo/in vitroで確認した。

 一方でRunx2では、ヘテロcKOマウス(Runx2が40%程度低下している)で変形性関節症が抑制されたが、ホモcKOマウス(Runx2が80%程度低下している)では変形性関節症が進行した。Runx2がヘテロ/ホモKOでも減少すると、Sham側でも手術側でも軟骨破壊因子であるMmp13は減少した。一方で、保護因子のCol2a1については、手術側でのみ、Runx2ホモcKOマウスで減少していた。in vitroの初代軟骨細胞にIL-1βを投与する炎症負荷実験でも、Runx2ホモcKOマウス由来の軟骨細胞でCo2a1が減少した。この結果から、Col2a1の発現を強力に誘導する転写因子Sox9が減少する炎症反応下においてRunx2も減少する特殊な状況でのみ、Col2a1の発現が減少すると考えた。

 この仮説を示すため、ChIP-seqを行なった。Runx2は炎症反応下ではSox9の転写標的近傍に作用することがLuc-Assayの結果と共に示された。RNA-seqと合わせてRunx2が炎症反応下でCol2a1の発現を誘導することを示した。一方で、Runx3は軟骨保護因子のAcan/Prg4の発現を誘導し得る結果であった。以上から、Runx2は炎症反応下において関節軟骨に破壊的にも保護的にも働き、Runx3は炎症反応下で減少しうるが保護的に作用すると考えた。最後に、マウス手術モデルにおいて、アデノウイルスベクター関節注射でRunx3の発現をサポートすると、変形性関節症の進行が抑制できた。

永田 向生
図1:Runx2のホモノックアウトにおいて、Sham側(左)では軟骨保護因子のCol2a1は減少しないが、手術側(右)において変形性関節症が進行してCol2a1が免疫染色において定量的に減少している。

永田 向生
図2:野生型マウス生後8週で外科手術を行い、変形性関節症を誘導しながらアデノウイルスベクターを膝関節注射した。Runx3を過剰発現したモデルにおいて(右)Runx3及びPrg4の発現が増えて、変形性関節症の進行も抑制された。

著者コメント

 これまで変形性関節症について破壊的因子であると考えられたRunx2ですが、軟骨代謝に必須の因子が悪玉だけでの作用であるはずがないと考え、実験を進めてきました。IL-1βの負荷の有無で軟骨細胞でChIP-seqを行い、Runx2の作用の仕方が変わるのは、面白い発見でした。同じマウスを使用した(Hojo, Cell Rep, 2022)と合わせてご確認ください。またRunx3が軟骨に対して保護的に作用しうることを示せたので、新たな治療ターゲットになりうると考えます。
 本研究の遂行にあたり、多大な支援をいただきました北條先生・大庭先生、事前検討いただきました張先生、Fig5・8の作成には岡田先生・立花先生に特にお世話になりました。同じ時期を乗り切ったラボの先生方、研究の指導いただいた矢野先生・小俣先生、様々な助言をいただきました田中教授、研究室を牽引している齋藤先生に心より感謝申し上げます。(東京大学整形外科・脊椎外科・永田 向生)