日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

JP / EN
入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

1st Author

TOP > 1st Author > 北條 宏徳

Runx2はクロマチンアクセシビリティ制御を介して骨芽細胞の運命決定を担う

Runx2 regulates chromatin accessibility to direct the osteoblast program at neonatal stages.
著者:Hironori Hojo, Taku Saito, Xinjun He, Qiuyu Guo, Shoko Onodera, Toshifumi Azuma, Michinori Koebis, Kazuki Nakao, Atsu Aiba, Masahide Seki, Yutaka Suzuki, Hiroyuki Okada, Sakae Tanaka, Ung-Il Chung, Andrew P McMahon, Shinsuke Ohba
雑誌:Cell Reports 40, 111315, 2022
  • Runx2
  • 骨芽細胞
  • クロマチンアクセシビリティ

北條 宏徳
著者(左から2番目)、大庭先生(左から4番目)と研究室のメンバー、共同研究先の先生方

論文サマリー

 転写因子Runx2は骨発生に必須であり、軟骨細胞の肥大化と骨芽細胞の運命決定を制御することから、骨発生のマスター転写因子とされています。Runx2はDNAに結合して、特定の遺伝子を活性化させることがわかっていました。しかし、Runx2が軟骨細胞と骨芽細胞のゲノム上で、どこで・どのようにはたらいているか、その転写制御のメカニズムや全体像は十分に明らかになっておりませんでした。

 そこで私達は、次世代シークエンサーを駆使したゲノムワイド解析を通して、骨発生における軟骨細胞と骨芽細胞のエンハンサー領域の全貌と、Runx2が制御する転写機構の解明に取り組みました。Runx2が結合するゲノムDNA領域を網羅的に同定するため、3xFLAGを含むエピトープタグをRunx2遺伝子座にノックインしたマウスを作製し、抗FLAG抗体を用いたクロマチン免疫沈降法シークエンシング(ChIP-seq)解析を行いました。また、軟骨細胞と骨芽細胞でエンハンサー候補領域を同定するため、オープンクロマチン領域を検出するATAC-seq解析を行いました。その結果、Runx2は軟骨細胞と骨芽細胞で細胞種特異的なオープンクロマチン領域に集積していることが分かりました。これらの領域では、骨芽細胞と軟骨細胞のそれぞれに特異的な転写因子群や、両細胞で共通する転写因子群がRunx2と一緒にはたらくことで、オープンクロマチン状態を規定している可能性が示唆されました。

 次に、Runx2がオープンクロマチン状態の形成に必要かどうか検証しました。Cre-loxPシステムを用いて、Sp7陽性骨芽細胞前駆細胞でのみ、Runx2遺伝子の欠損と蛍光タンパク質tdTomatoの標識を行い、Runx2遺伝子欠損細胞を単離した後、ATAC-seq解析を行いました。その結果、Runx2を欠損させると、骨芽細胞で重要だと考えられるエンハンサー領域の多くでオープンクロマチン状態が変化し、転写因子群が作用することが困難になる可能性が示されました。一方、培養線維芽細胞にRunx2を異所性に発現させると、Runx2がエンハンサー領域のオープンクロマチン状態を誘導するパイオニアファクター様の作用を発揮することが確認されました。

 最後に、同定したRunx2依存的なエンハンサー候補領域の中で、骨形成への寄与が高いエンハンサーを同定するため、ゲノム編集技術と一細胞RNA-seq解析を統合することで、エンハンサー領域の欠損とそれに伴う遺伝子変化を同時に検出可能な実験系を立ち上げました。本実験系を用いて、エンハンサー候補領域をスクリーニングしたところ、骨発生に重要な転写制御因子であるSp7の転写開始点から11 kb離れた遠位エンハンサーを同定しました。In vivoレポーターマウスとエンハンサー欠損マウスを作出し、解析を行いました。その結果、同定したエンハンサーは骨芽細胞特異的に活性化すること、エンハンサー欠損により骨量の有意な抑制が認められました。

 以上より、Runx2を介する骨発生転写ネットワークの一端が明らかになりました。

北條 宏徳
本研究で明らかになったRunx2を介した骨発生転写ネットワーク機構のモデル

著者コメント

 本研究は、私が2012年から2016年まで留学していた米国南カリフォルニア大学Andrew McMahon研究室での研究を引き継いで、日本で行った研究です。McMahon先生と現大阪大学の大庭伸介先生が2008年にChIP-seqを用いた骨格発生における転写ネットワーク解析のプロジェクトを立ち上げられ、2012年から本プロジェクトに参加させていただく幸運を得ました。本成果が、一連の研究成果(Cell Rep 12:229, 2015; Development 143:3012, 2016; Dev Cell 37:238, 2016; Trends Genet. 32:774, 2016)の1つに加えられ、14年にわたるプロジェクトに一つの区切りを迎えられたことを大変うれしく思います。ご指導をいただきました大庭先生、McMahon先生、鄭雄一先生に深謝いたします。本研究は、多くの共同研究の先生方のご支援・ご協力のおかげで完遂できました。この場を借りて心よりお礼申し上げます。(東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター・北條 宏徳)