日本骨代謝学会

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常染色体優性多発性嚢胞腎を有する血液透析患者に発症した進行性骨粗鬆症に対してロモソズマブによる治療が奏功した一例

Romosozumab successfully regulated progressive osteoporosis in a patient with autosomal dominant polycystic kidney disease undergoing hemodialysis.
著者:Taihei Suzuki, Masahide Mizobuchi, Shunsuke Yoshida, Narumi Terado, Shugo Aoki, Nozomi Sato, Hirokazu Honda
雑誌:Osteoporos Int. 2022 Aug 18. doi: 10.1007/s00198-022-06534-4
  • 腎性骨異栄養症
  • 骨粗鬆症
  • ロモソズマブ

鈴木 泰平
向かって左から 佐藤望先生、鈴木泰平(筆頭著者)、本田浩一教授

論文サマリー

【症例】40歳代男性、X-3年より常染色体優性多発性嚢胞腎を原疾患とする末期腎不全症のため血液透析導入となった。患者は血液透析導入以前より腎嚢胞感染ならびに嚢胞出血を反復しており、高CRP血症が数年来持続していた。X-2年11月に腰痛による体動困難を主訴に来院し、脊椎多発骨折の診断で当院当科に入院となった。入院時の血液検査で補正Ca 15.0 mg/dl,iPTH 18 pg/ml,TRACP-5b 1013 mU/dlであり,DXA法で腰椎、大腿骨頚部および橈骨遠位端のいずれも著明な骨量の低下を認めた。骨吸収亢進による高Ca血症ならびに骨密度低下を呈したものと考え、デノスマブ 60 mgを投与したところ、血清補正Ca 8.5 mg/dlまで改善し、自覚症状も軽快したため一度退院した。X-1年1月に再び腰痛による体動困難を訴え再度入院となり、その際に新たな胸腰椎圧迫骨折と両側大腿骨骨挫傷を認めた。入院中に血清補正Ca 12.6 mg/dl、iPTH 21 pg/ml、TRACP-5b 1328 mU/dlと再び骨代謝マーカーの上昇を認めた。低Ca透析液を使用し血液透析を行なったが改善なく、同年3月よりロモソズマブ 105 mg/月の投与を開始した。同月に骨生検を施行したところ、BV/TV 11.91%と骨量の低下を認め、OS/ BS 57.91 %、ES/BS 26.43 %と骨高回転であった。またMAR 0.54 μm/日であり、石灰化障害が示唆された。4月の血液検査で血清補正Ca 9.6 mg/dl,iPTH 47 pg/ml,TRACP-5b 1346 mU/dlまで改善し、自立歩行可能な状態まで回復し退院となった。外来でロモソスマブによる治療を継続し、12月には血清補正Ca 9.4 mg/dl,iPTH 61 pg/ml,TRACP-5b 445 mU/dlまで改善を認め、報告時点まで自立した生活が保たれていた。

【考察】本症例は40歳代であり、透析導入患者の平均年齢より若く、また透析導入から約1年程度と導入後早期にも関わらず易骨折性を有した重度の骨粗鬆症を呈していた。この骨粗鬆症の重症化には、透析導入以前より併存していた持続的な炎症状態(高CRP血症)が関与している可能性が考えられた。ロモソズマブは、Wntシグナル伝達系に作用することで骨芽細胞の分化を誘導し骨形成を促進すると共に、RANKLのデコイ受容体(OPG)発現の亢進による骨吸収抑制作用を有することが報告されている。本症例の骨生検所見では、高回転骨および骨石灰化障害が併存していた。ロモソズマブによる骨石灰化障害の改善と骨吸収抑制により骨病変の制御が可能となったことで、骨症状が改善したと考察された。

鈴木 泰平

鈴木 泰平

著者コメント

 本症例は1度目の入院の際に脊椎多発骨折と、著明な高Ca血症および骨代謝マーカーの上昇を呈しており、骨吸収抑制を期待してデノスマブを使用しました。投与直後から血清Ca濃度は速やかに正常化しADLも改善を認めたため、6ヶ月毎のデノスマブによる治療を計画していましたが約1ヶ月程度で再び多発骨折を発症し再入院となりました。ロモソズマブは慢性腎臓病患者に合併する骨粗鬆症に対し使用される例が増えつつありますが、本症例のような血液透析患者に合併する重度かつ進行性の骨粗鬆症に対して投与した経験はなく、医局員一同でカンファレンスを積み重ね、慎重に使用することになりました。また、使用時点での骨の状態を把握するために、虎ノ門病院腎センター内科 乳原 善文先生に依頼し、骨生検を行なっていただいきました。骨生検の結果を確認することで、更に確信を持って治療に臨むことができたと感じています。ご協力いただいた先生方に深く感謝申し上げます。本報告が骨粗鬆症患者さんにおける治療の一助になることを願っています。(昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門・鈴木 泰平 )