日本骨代謝学会

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骨巨細胞腫の骨芽細胞分化におけるβ-カテニン核内移行の重要性

Nuclear β-catenin translocation plays a key role in osteoblast differentiation of giant cell tumor of bone.
著者:Atsushi Kimura, Yu Toda, Yoshihiro Matsumoto, Hidetaka Yamamoto, Kenichiro Yahiro, Eijiro Shimada, Masaya Kanahori, Ryunosuke Oyama, Suguru Fukushima, Makoto Nakagawa, Nokitaka Setsu, Makoto Endo, Toshifumi Fujiwara, Tomoya Matsunobu, Yoshinao Oda, Yasuharu Nakashima
雑誌:Sci Rep. 2022 Aug 4;12(1):13438. doi: 10.1038/s41598-022-17728-5.
  • 骨巨細胞腫
  • β-カテニン
  • 骨芽細胞分化
  • デノスマブ

木村 敦・松本 嘉寛
向かって左 木村 右 松本

論文サマリー

 デノスマブの導入は, 骨巨細胞腫(giant cell tumor of bone: GCTB)の新規治療法として注目されています. いくつかの臨床研究により, デノスマブ投与は破骨細胞様巨細胞を欠失させ骨溶解を抑制することが確認されていますが, それだけに留まらず, 腫瘍辺縁の骨形成を伴う中心性の腫瘍硬化を含む, 付随的な組織学的結果も引き起こすことで, 外科的なダウンステージングを可能にする事も利点の一つです. しかし, デノスマブ投与後の骨形成の程度については症例間で大きな差があり, デノスマブで治療したにも関わらず, 骨形成が殆ど得られない症例も経験します. よって, デノスマブ投与後の骨形成を予測することが可能となれば,最適な治療方針の決定に有益な情報となります. 本研究では, Wnt/β-カテニンシグナルとGCTBの骨化との関連を調べた上で, 内因性のβ-カテニン核内発現が, デノスマブによるGCTBの骨形成に対する予測因子となり得るかどうかについて検討しました.

 まず, GCTBの腫瘍性間質細胞(GCTB tumor stromal cell; GCTB-SCs)の骨芽細胞への分化メカニズムに着目しました.手術標本より樹立した初代培養であるGCTB-SCsは, H3G34W-陽性であり, かつ骨芽細胞への分化能を保持していましたが, 軟骨細胞や脂肪細胞への分化は認めず, 多能性を保持していないことが明らかになりました. また, 特定の骨芽細胞マーカー(ALP, COL1A1, IBSP, RUNX2, BGLAP)の発現及びβカテニンの核内移行は, 分化誘導により有意に上昇し, 他方Wntシグナル阻害剤であるGGTI-286や, 選択的Rac1-LEF阻害剤であるNSC23766での処理に抑制され,β-カテニン核内移行がGCTB-SCsの骨芽細胞への分化に関連していることを、初めて明らかとしました.

 さらに, 86検体の臨床サンプルを用いてGCTBの内因性骨化及びβ-カテニンの核内移行について検討した結果, 内因性の腫瘍内骨化がβ-カテニンの核内移行と有意に関連していることが明らかになりました. 引き続き、デノスマブを投与した13例において、投与前後の腫瘍CT画像の3次元定量解析を行ったところ, デノスマブ投与前にのβ-カテニン核内移行が多い症例では, 有意にデノスマブ投与による腫瘍性骨化が生じることを見出しました. これらの結果は, β-カテニンの核内移行と GCTBの骨芽細胞分化との密接な関係を示唆するものであり, 生検標本のGCTB-SCsにおける核内β-カテニンの染色性が, デノスマブ投与後の骨形成の程度を予測するための合理的かつ直接的なバイオマーカーとなることを示しています.

木村 敦・松本 嘉寛

著者コメント

 GCTBは中間悪性の骨腫瘍であり, 局所浸潤性でしばしば関節破壊を伴うこと, 掻把後に高率で再発することなどがしばしば問題とされてきました. 近年になり, 術前のダウンステージングを目的として, もしくは術後再発例に対して, デノスマブ投与が治療選択肢として登場してまいりましたが, 投与しても反応が乏しい症例があることや, 投与中止後の再発など、未だ多くの臨床的問題がございます. 我々の研究では,GCTBの骨分化にとってβ-カテニンの核内移行が不可欠であることに加えて, 核内移行とデノスマブ投与後の腫瘍性骨化との関連を明らかとしました。その結果, 生検検体などをβ-カテニンで免疫染色することにより, 治療効果が予見可能性となると考えられ,GCTBの治療方針決定の一助となることが期待されます. (九州大学医学研究院整形外科・木村 敦・松本 嘉寛)