日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > Shumin Rui・窪田 拓生

リン酸はヒト間葉系幹細胞において非古典的Wntシグナル経路を介して骨形成分化を促進する

Phosphate promotes osteogenic differentiation through non-canonical Wnt signaling pathway in human mesenchymal stem cells
著者:Rui S, Kubota T, Ohata Y, Yamamoto K, Fujiwara M, Takeyari S, Ozono K.
雑誌:Bone. 2022;164:116525. doi: 10.1016/j.bone.2022.116525.
  • リン酸
  • 間葉系幹細胞
  • 非古典的Wntシグナル

Shumin Rui・窪田 拓生
前列左から、大薗恵一教授、筆頭著者のShumin Rui、窪田拓生、北岡太一
後列左から、中山尋文、藤原誠、山本賢一、武鑓真司、大幡泰久

論文サマリー

 リン酸は、骨形成に不可欠なミネラルである。しかし、リン酸が骨形成分化を促進する機構は十分には理解されていない。本研究では、リン酸が骨形成分化において誘導するシグナル伝達経路について検討した。

 β-グリセロリン酸(GP)、1mM 無機リン酸(1 mM Pi)、もしくは3mM 無機リン酸(3 mM Pi)を含む培地を用いてヒト骨髄由来間葉系幹細胞を骨芽細胞へ分化誘導した。培養7日目において、3 mM Pi群ではGP群および1 mM Pi群に比べ、骨芽細胞分化と石灰化が促進された。培養7日目に行ったRNAシーケンスでは、3mM Pi群において骨形成に関与する遺伝子やWntシグナル伝達経路の構成因子の発現がGP群に比べ増加した。qPCRおよびウェスタンブロットによる解析では、3 mM Pi群では7日目にWNT5bやリン酸化c-Jun、ROR2 mRNA発現がGP群に比べて増加していることが示された。WNT11 mRNAの発現は2つの誘導群で維持培地と比べて増加した。WNT5b発現をsiRNAで阻害すると、WNT5b、WNT11、ROR2 mRNA発現、リン酸化c-Jun発現など非古典的Wntシグナルの構成因子の発現が低下した。また、3 mM Pi群では、WNT5bの発現抑制により、培養7日目の骨芽細胞分化と石灰化が部分的に低下した。さらに、FGFR1阻害薬を用いると、3 mM Pi群で上昇したWNT5b、Wnt11、ROR2 mRNA発現が部分的に抑制された。

 本研究では、リン酸は間葉系幹細胞から骨芽細胞への分化初期にWNT5b、WNT11、リン酸化c-Junの発現を上昇させ、非古典的Wntシグナル経路を活性化し、骨形成分化を促進することが明らかとなった。これらの知見は、骨形成分化におけるリン酸と非古典的Wntシグナル伝達経路の関連について新たな視点を提供する。

Shumin Rui・窪田 拓生

著者コメント

 骨の正常な発達・恒常性維持は人間の健康にとって重要であり、骨形成を担う骨芽細胞分化のメカニズムを探ることは、骨形成の生理や代謝性骨疾患の病態の研究に不可欠である。我々は、本研究でリン酸によって誘導される骨芽細胞分化の初期段階における非古典的Wntシグナル伝達経路の活性化の関与について示した。これは一つの基礎研究であり、臨床試験と比較すると、基礎研究は一つ一つの実験を何度も繰り返さなければならないという退屈な時もありました。大学院での実験は決して順風満帆に進んだわけではありませんでした。幸いなことに、問題が発生したときには、大薗教授や窪田先生に相談することができましたし、研究グループのメンバーにも助けてもらいました。最終的に、有意義な実験結果を得て、嬉しいことに研究結果を雑誌に掲載することができました。(大阪大学大学院医学系研究科小児科学・Shumin Rui・窪田 拓生)