日本骨代謝学会

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骨細胞様細胞IDG-SW3における炎症性サイトカインによるFGF23発現調節

Regulation of FGF23 expression in IDG-SW3 osteocytes and human bone by pro-inflammatory stimuli.
著者:Ito N, Wijenayaka AR, Prideaux M, Kogawa M, Ormsby RT, Evdokiou A, Bonewald LF, Findlay DM, Atkins GJ.
雑誌:Mol Cell Endocrinol. 2015 Jan 5;399:208-18
  • FGF23
  • 骨細胞
  • 炎症性サイトカイン

伊東 伸朗

論文サマリー

【背景】
FGF23は骨細胞で産生され、腸管からのリン吸収、尿細管でのリン再吸収を抑制する生理的血清リン調節ホルモンです。敗血症性ショック患者では一過性の低リン血症を認めることがあるため、今回、炎症性サイトカインが骨細胞でのFGF23産生に影響するか否かについてFGF23産生を認めるマウス骨細胞様細胞IDG-SW3を用いて検討しました。

【方法・結果】
5週間培養し骨芽細胞様から骨細胞様に分化したIDG-SW3細胞において、TNF、IL-1β、TWEAK、LPSは濃度依存的にFgf23 mRNAの発現を100~1000倍まで強力に増加させました。これらの刺激ではFgf23 mRNAの発現は3-6時間後に最高値に達し、24時間後も前値より有意に高値でした(図)。

伊東 伸朗

炎症性サイトカインによる骨細胞でのFGF23産生刺激はNF-κβシグナルを介している事も示しました。一方でFGF23を負に調整していると考えられるタンパク:PHEX、DMP1、ENPP1をコードするmRNAの発現は炎症性サイトカインによって抑制されました。FGF23タンパクのレベルは、活性型の全長FGF23のみを測定するキット(intact FGF23)と、全長FGF23と同時に酵素的に切断された不活性なC端FGF23も測定するキット(FGF23 (C term))で検討しました。炎症性サイトカイン刺激により、FGF23 (C term)はmRNAと同様に増加しましたが、intact FGF23の値に有意な変化はありませんでした。FGF23の切断酵素と考えられているFurinの阻害薬の投与下ではintact FGF23も炎症性サイトカイン刺激で増加しました。

【考察】
本研究により炎症性サイトカインが強力にFgf23 mRNAの転写を促進する事を明らかに出来ました。ただし、最終的なFGF23タンパクの活性は、全長FGF23タンパクの切断効率で決定しているという事実も同時に裏付ける事が出来ました。この翻訳後の最終的な全長FGF23量のコントロールは、FGF23元来のターゲットである血中リン濃度によってのみ調整されるものと推察しています。しかし、敗血症性ショック時は急激に炎症性サイトカインが上昇し、Fgf23 mRNAの急増が生理的な翻訳後の切断による代償を上回り、一時的な低リン血症を惹起する可能性が残されます。保存期、透析期慢性腎不全では慢性的非代償性高リン血症によって、FGF23の酵素的切断は強力に抑制されています。しかし、血中リン濃度に見合わない顕著な高FGF23血症も多く認めます。本研究結果から、腎不全時の著明な高FGF23血症は高リン血症だけでなく、高炎症性サイトカイン血症によるFgf23 mRNA発現亢進も反映しているものと考えました。このために、以前に他のグループから報告された前向き臨床研究で、血液透析導入時のFGF23の値が透析開始後の予後に相関するという結果が得られたのではないかと推察されます。

著者コメント

東大の福本誠二先生の研究室での大学院時代はFGF23産生調節がテーマでした。しかしFGF23を産生する細胞株に乏しくin vitroの研究は多難を極めました。2010年からオーストラリアのアデレード大学でDavid Findlay先生とGerald Atkins先生に師事しました。福本先生が、メルボルン大学のPTHrPを同定したJohn Martin先生の研究室に留学していた時にFindlay先生が同僚であったという縁です。原初培養骨細胞や骨細胞様細胞株を用いた研究を主に行っており、当時はSclerostinの研究に力を入れていました。自身も最初はSclerostinの研究を行っていたのですが、うまく結果が出せず、成果も出ないまま帰国も考えていた頃、ミズーリ・カンザス大学のLynda BonewaldのグループがFGF23を産生する骨細胞様細胞株IDG-SW3を作成し、譲ってくれた事で、上記研究結果を得ることが出来ました。2008年のNEJMに透析導入前のFGF23高値と生命予後の逆相関が報告された後、FGF23が直接心臓等の臓器に悪影響を与える可能性を示した論文が出されましたが、FGF23は腎臓などに特異的に発現しているKlothoを受容体の一部とすることで臓器特異的に働いていることが既に示されており、自身は懐疑的に捉えておりました。今回の自身の報告で、末期腎不全でのFGF23は高リン血症や高サイトカイン血症などの生命予後に負の影響を与える因子の複合的な影響を受けたサロゲートマーカーに過ぎない、というアンチテーゼを示せたと考えています。留学中、オージー気質でいつも優しく励ましてくれたアデレード大学のFindlay先生とAtkins先生、また常に自身の道標となって下さった徳島大学藤井節郎記念医科学センターの福本誠二先生らの今後の骨代謝研究の益々のご発展を願うとともに、この場をお借りして改めて感謝の念をお伝え致します。(東京大学医学部 附属病院 腎臓・内分泌内科・伊東 伸朗)