Siglec-15は閉経後骨粗鬆症の治療ターゲットとなり得るか?
著者: | Kameda Y, Takahata M, Mikuni S, Shimizu T, Hamano H, Angata T, Hatakeyama S, Kinjo M, Iwasaki N. |
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雑誌: | Bone. 2014 Nov 8;71C:217-226. |
- 破骨細胞
- 閉経後骨粗鬆症
- ITAM
論文サマリー
骨吸収を司る破骨細胞の分化には,M-CSFとRANKLの二つのサイトカインが必須であるが,近年,第3のシグナルとしてimmunoreceptor tyrosine-based activation motif (ITAM)を介した共刺激シグナルの重要性が明らかとなってきた.ITAMを含有するDAP12とFcRγがこの共刺激シグナルに関与するが,これらのアダプター蛋白と会合し,その賦活化に関与する免疫受容体の機能や役割についてはまだ不明な点が多い.Siglec-15はシアル酸を認識する免疫グロブリン様受容体であり,DAP12と会合する事が報告された新しい分子である.
Siglec-15のリガンドや機能には未だ不明な点が多いが,我々のグループではSiglec-15がDAP12を介してRANKLシグナルを調節し,破骨細胞の最終分化を制御することを明らかとしてきた.Siglec-15欠損マウスは軽度の大理石病を呈することから,Siglec-15は生理的環境下における骨吸収を調節していることが明らかであるが,病的な骨吸収亢進状態における役割は未だ不明である.本研究では,代表的な骨吸収亢進疾患である閉経後骨粗鬆症においてSiglec-15が治療ターゲットとなるか否かを検証するために,マウス卵巣摘出モデルにおけるSiglec-15の役割を調査した.
iglec-15欠損マウスは卵巣摘出(OVX)により骨量が減少したが、その減少率は野生型(WT)マウスと比較して少なかった.エストロゲン欠乏による破骨細胞誘導には,炎症性サイトカインのひとつであるTNFαの産生亢進が重要であることから,さらにin vitro培養系でTNFαによる破骨細胞分化誘導能を検証した.Siglec-15欠損マウス由来骨髄マクロファージはM-CSFとTNFα存在下に培養しても正常な多核破骨細胞を形成せず、牛皮質骨切片上で培養してもWTと比較して骨吸収能が低下していた.しかし、Siglec-15欠損細胞は単核のTRAP陽性細胞までは分化することやTNFα刺激による細胞内シグナルには異常を認めなかったことから,Siglec-15はTNFα下流のシグナルを直接制御するのではなく,細胞融合や細胞骨格形成などの制御に関与すると考えられた.本研究の結果から,Siglec-15は閉経後骨粗鬆症の治療ターゲットとなりうることが示された.
著者コメント
私は整形外科医として5年間臨床を経験した後に,大学院に入学し基礎研究に従事しました.苦労した時期もありましたが,未知の事柄に対して仮説を立て,立証していくという作業は上手くいった時には大きな喜びを与えてくれました.北海道の厳しい寒さの中,凍りついた廊下を通って実験室に向かった日々は忘れられません.
この研究を行うにあたりましては,北海道大学医学部整形外科講師の高畑雅彦先生を始めとして多くの先生方にご指導、ご高配を頂きました。この場を借りて心より感謝申し上げます.(北海道大学整形外科・亀田 裕亮)