日本骨代謝学会

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Porphyromonas gingivalis が産生するリシン特異的ジンジパインはTNF-αやIL-1βにより誘導される破骨細胞分化を促進するがIL-17Aによる破骨細胞分化を抑制する:リシン特異的ジンジパインによるosteoprotegerin分解の重要性

Porphyromonas gingivalis-derived lysine gingipain enhances osteoclast differentiation induced by tumor necrosis factor-α and interleukin-1β but suppresses that by interleukin-17A: importance of proteolytic degradation of osteoprotegerin by lysine gingipain
著者:Akiyama T, Miyamoto Y, Yoshimura K, Yamada A, Takami M, Suzawa T, Hoshino M, Imamura T, Akiyama C, Yasuhara R, Mishima K, Maruyama T, Kohda C, Tanaka K, Potempa J, Yasuda H, Baba K, Kamijo R
雑誌:J Biol Chem 289 (22): 15621-15630, 2014
  • 歯周病
  • gingipain
  • オステオプロテゲリン

秋山 智人

論文サマリー

歯周病は歯槽骨吸収を伴う慢性炎症性疾患である。歯周病の最も重要な原因菌であるPorphyromonas gingivalisはgingipainsと総称される一群のシステインプロテアーゼを産生する。gingipainsは基質分解部位によるアルギニン特異的ジンジパイン(RgpA、RgpB)とリシン特異的ジンジパイン(Kgp)に分類される。各ジンジパイン遺伝子欠損P. gingivalis株の感染モデルにおいて、歯槽骨破壊にgingipainsが関与し、その寄与度はKgp > RgpB > RgpAの順に大きいと報告されているが(Infect Immun 75: 1436-1442)、そのメカニズムは不明だった。我々は、Kgpがosteoprotegerin(OPG)を分解することで、LPSなどの菌体成分や活性型ビタミンDで誘導される破骨細胞形成を促進することを見出した(Biochem J 419: 159-166, 2009)。歯周病における骨破壊では、LPSばかりでなく、宿主細胞が産生する炎症性サイトカインが重要な役割を果たしているが、gingipainsは種々のサイトカインを分解することが知られている。そこで我々は、マウス骨芽細胞と骨髄細胞の共存培養系を用いて、TNF-α、IL-1βおよびIL-17Aにより誘導される破骨細胞分化に対するKgpおよびRgpBの影響を解析した。KgpはTNF-αおよびIL-1βによる破骨細胞分化を促進したのに対し、IL-17Aによるそれを抑制した。一方、RgpBはこれらの炎症性サイトカインによる破骨細胞分化に影響を及ぼさなかった。Kgpによる破骨細胞分化誘導の促進あるいは抑制は、OPG遺伝子欠損マウスの骨芽細胞と骨髄細胞を用いた共存培養系では観察されなかった。KgpはOPGを効率よく分解したが、RANKLおよびRANKの分解効率は低かった。KgpによるTNF-α、IL-1β、IL-17AおよびOPGの分解を比較したところ、TNF-αおよびIL-1βのKgpによる分解効率はOPGのそれより低いのに対し、IL-17AはOPGと同様、Kgpによって速やかに分解された。したがって、KgpがTNF-αおよびIL-1βの破骨細胞分化誘導作用を増強し、IL-17Aのそれを低下させた現象は、各サイトカインとOPGのKgpによる分解効率の違いで説明できると考えられた。さらに、Kgpとの反応で生じたOPG分解断片のN末端アミノ酸配列を解析したところ、KgpはOPGのRANKL結合部位ではなく、デスドメイン類似領域内を優先的に切断することが判明した。Kgpによりデスドメイン類似領域が切断されたOPGは、RANKLを発現した骨芽細胞への結合能を失っていた。これらの結果から、KgpによるOPGの分解・不活性化が歯周病性破壊で重要な役割を果たしていると考えられた。

著者コメント

私が研究をするきっかけとなったのは昭和大学大学院への入学でした。大学院では臨床科目である歯科補綴学を先行した私でしたが、馬場一美教授の薦めもあり、基礎研究の重要性を知り、口腔生化学講座で研究させていただくこととなりました。ピペットの使用法も知らなかった私でしたが、教室の先生方のご指導に支えられ、これまで続けることができました。基礎研究をするにあたり大切なことは、失敗したデータから何を学ぶかということだと思います。何度も壁にぶつかっては仮定や実験系を考察したり手技を見直したりする癖は現在の臨床の場でも考える力として活かされていると思っております。これからはさらに臨床を見据えた基礎研究を続けていく予定です。貴重な機会を与えて下さった馬場一美教授、上條竜太郎教授、宮本洋一准教授をはじめ歯科補綴学講座、口腔生化学講座の先生方に厚く御礼申し上げます。(昭和大学歯学部・秋山 智人)