日本骨代謝学会

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IRAK4は破骨細胞の活性化と異物巨細胞の抑制を介して炎症性骨破壊を促進させる

Interleukin-1 receptor-associated kinase-4 (IRAK4) promotes inflammatory osteolysis by activating osteoclasts and inhibiting formation of foreign body giant cells.
著者:Katsuyama E, Miyamoto H, Kobayashi T, Sato Y, Hao W, Kanagawa H, Fujie A, Tando T, Watanabe R, Morita M, Miyamoto K, Niki Y, Morioka H, Matsumoto M, Toyama Y, Miyamoto T.
雑誌:J Biol Chem. 2014 Nov 17. pii: jbc.M114.568360.
  • 破骨細胞
  • 異物巨細胞
  • IRAK4

勝山 詠理

論文サマリー

骨内に留置されたインプラントに炎症が生じた際、周囲組織に破骨細胞(osteoclast, 以下OCL)および異物巨細胞(foreign body giant cell, 以下FBGC)を認めたという報告があり、ゆえにこれら二者がインプラント不全に関連していると考えられてきた。OCLおよびFBGCはともに造血幹細胞由来単球マクロファージ系前駆細胞が細胞融合して形成される多核巨細胞であり、DC-STAMPに代表されるように細胞融合に必要な分子の多くを共有している。一方で、当研究室ではその上流を制御する分子に二者間で相違があることを見出しており、OCLとFBGCの生体内における役割が異なっている可能性が示唆された。そこで本研究はFBGCがOCLと相反する性質を持つという仮説に基づき進めた。まず、FBGCはOCLと異なり、酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ(TRAP)陰性で、骨吸収能も認めなかった。次に、マクロファージM1型炎症性サイトカインの代表で、強力なOCL分化促進因子であるinterleukin-1β(以下IL-1β)に着目し、in vitroにおいて、IL-1βがFBGCの分化を著明に抑制すること、その下流でinterleukin-1 receptor-associated kinase-4(以下IRAK4)が働いていること、IRAK4をノックアウト(以下KO)するとIL-1βによるOCL分化促進・骨吸収能活性化・生存延長およびFBGC分化抑制がキャンセルされることを見出した。菌体成分のlipopolysaccharide (以下LPS)やZymosanの添加実験でも同様にin vitroにおいてFBGC形成が抑制され、IRAK4 KOにより回復した。in vivoではLPSによるマウス頭蓋冠炎症性骨破壊の誘発・マウス腹腔内留置スポンジ内FBGC形成の抑制が、それぞれIRAK4 KOによってキャンセルされた。また、in vitroにおいてFBGCがOCLに比べchitinase-like 3 (Ym1), arachidonate 15-lipoxygenase (ALOX15), Fizz1, CD206, Arginase1を有意に高発現し、M2型のキャラクターを持つことが分かった。さらに、ワイルドタイプに比べIRAK4 KOマウス腹腔内スポンジでM2型マーカーの発現が高かった。一方で、OCLはin vitroでIL-1βを添加するとM1型マーカーであるTNFα, IL-12, Nos2の発現が増加した。IRAK4 KO単独ではOCLの形成・骨密度などには影響を与えなかった。以上の結果より、IL-1βやLPS存在下ではOCLとFBGCはIRAK4を介して相反した性質・分化挙動を示し、IRAK4 KOによって破骨細胞の生理的な分化・機能に影響なくその効果をキャンセルできることが分かった。

勝山 詠理
論文のfigure 8-c

著者コメント

前任者の先生から引き継いで始めた研究でしたが、当初データの一部に食い違いが生じ何度も再現性を確認したり、KOマウスがなかなか生まれなかったりと、軌道に乗るまでに時間を要しましたが、マウスが増えると共にin vivoのデータが揃い、IRAK4 KOがOCLの生理的な分化・機能に影響を与えないことが判明した辺りから自信をもって仮説に基づき実験を進めることが出来ました。M1/M2 polarizationのような骨代謝と一見離れた概念は研究室に閉じこもっていてはなかなかお目にかかれない知識なので、他の分野の学会や研究会などに幅広く興味を持ったり、同級生と研究について話したりして、偶発的にヒントを得ることも重要だと思いました。今後は一旦臨床の道に戻ることになりますが、ここで得た知識や手法を応用して、臨床と基礎の両サイドからアプローチできるような医師の道を進めたらと思います。(慶應義塾大学医学部整形外科学教室・勝山 詠理)