日本骨代謝学会

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Gli1ハプロ不全は骨代謝のアンカップリングを伴う骨量低下をきたす

Gli1 Haploinsufficiency Leads to Decreased Bone Mass with an Uncoupling of Bone Metabolism in Adult Mice.
著者:Kitaura Y, Hojo H, Komiyama Y, Takato T, Chung UI, Ohba S.
雑誌:PLoS One. 2014 Oct 14;9(10):e109597.
  • ヘッジホッグ
  • 骨恒常性

北浦 義昭

論文サマリー

 ヘッジホッグ(Hh)シグナルは、胎生期の細胞の運命決定や器官形成に不可欠な因子であり、種を越えて高度に保存されていることが知られている。Hhシグナルの下流では転写因子Gliが働き、脊椎動物ではGli1、Gli2、Gli3の3種が存在する。これまで、Gliの機能に関しては、Gli2とGli3に注目して解析されることが多く、Gli1については未だ不明な点が多い。Hhシグナル自体も、胎生期における重要性は明らかになっているが、成体での役割については依然として未知の部分が多い。そこで、本研究では、成体の骨恒常性におけるHh-Gli1シグナルの役割を検証することを目的とした。

 Gli1ホモ欠損マウスは出生後の生存率が低かったことから、Gli1の喪失による全身的な影響が大きく、骨組織の評価には適さないと考えられた。一方、Gli1ヘテロ欠損マウスは、体長・体重は野生型(WT)マウスと同等レベルでありながら、成体骨量の低下を示した。また、骨形態計測において、骨形成パラメーターの低下と骨吸収パラメーターの上昇を示したことから、Gli1ヘテロ欠損による骨量低下は骨形成と骨吸収のアンカップリングによるものと考えられた。新生仔頭蓋冠由来骨芽細胞や、長管骨の骨髄間質系細胞からインビトロで誘導した骨芽細胞を解析すると、Gli1ヘテロ欠損マウス由来の細胞では、骨芽細胞マーカー遺伝子の発現がWTマウス由来細胞と比較して有意に低下していた。骨芽細胞と骨髄細胞の共存培養実験においては、Gli1ヘテロ欠損マウス由来の骨芽細胞を使用した場合に破骨細胞形成が促進した。Gli1ヘテロ欠損マウス由来の骨芽細胞系細胞をさらに詳細に解析すると、骨細胞マーカーであるDmp1やSclerostinの発現がWTマウス由来細胞と比べて亢進しており、RANKLの発現も有意に上昇していた。以上の結果は、Gli1ヘテロ欠損マウスの骨組織の表現型が、骨芽細胞-骨細胞系の分化プログラムの異常に起因することを示唆している。つまり、成熟骨芽細胞への分化をスキップした骨細胞への分化亢進が、骨形成の低下のみならず、破骨細胞支持能の亢進を介した骨吸収の上昇をきたすと考えられる。最後に、脛骨の骨折モデルを用いてGli1ヘテロ欠損マウスの骨折治癒を解析すると、仮骨の形成量が野生型と比べて有意に低下していた。

 以上より、Hh-Gli1シグナルは、骨芽細胞の初期分化の促進作用と、骨細胞分化の抑制作用を通じて、骨形成と骨吸収の両方に関与し、成体における骨恒常性と骨修復に重要な役割を果たしていることが示唆された。

著者コメント

長年、電機メーカーで半導体の研究開発業務に従事していた私が、医工連携の新規分野の研究を目指して広島大学歯学部に学士編入したのは40代半ばの時。研修医を修了し、東京大学大学院医学系研究科に入学した時は既に50代。半導体開発では相応のキャリアがあるものの、そこは全く勝手の違う生物学研究の世界、種々のアッセイやキットの出来のよさに感心しつつも、老眼の初心者にとっては、困難な実験の連続でした。また、研究開始当初はGli1ホモ欠損マウスの解析を目指したものの、生存率が低い為に大量飼育に陥り、マウス実験の洗礼を受けることになりました。こんな私を辛抱強くご指導頂いたのが、大庭伸介准教授と鄭雄一教授です。この場を借りて御礼申し上げます。(東京大学大学院医学系研究科・北浦 義昭)