日本骨代謝学会

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CCL7は機械的刺激の負荷により産生される骨細胞保護因子である

CCL7 Is a Protective Factor Secreted by Mechanically Loaded OsteocytesCCL7 Is a Protective Factor Secreted by Mechanically Loaded Osteocytes
著者:Kitase Y, Lee S, Gluhak-Heinrich J, Johnson ML, Harris SE, Bonewald LF.
雑誌:J Dent Res. 2014 Nov;93(11):1108-15.
  • 流体誘導性シアストレス
  • CCL7
  • 骨細胞保護因子

北瀬 由紀子

論文サマリー

健康な骨細胞の存在は、骨の恒常性を維持する上で非常に重要な役割を担っている。本研究では、以前報告した早期保護因子であるプロスタグランジンE2に加えて、ケモカインの一種であるCCL7が流体誘導性シアストレスに応答して骨細胞から産生される後期保護因子として機能していることを報告した。

流体誘導性シアストレスに応答する骨細胞由来因子のマイクロアレイによる解析の結果、長管骨由来の骨細胞株、MLO-Y4にてCCL7の発現上昇が認められた。また歯の移動モデルにおいても、圧迫側におけるCCL7の発現上昇が確認された。以前我々は、 流体誘導性シアストレスが骨細胞の生存を促進することを明らかにしており、本研究では CCL7が骨細胞における新たな保護因子として機能していると仮説し検討を行った。

デキサメサゾンによる骨細胞の細胞死誘導系を用いて CCL7の保護作用について検討を行ったところ、5x10-9~2.5x10-8 M の範囲で細胞死の抑制が確認された。同様に骨芽細胞株であるMC3T3-E1細胞でも保護作用を示した。さらに CCL7抗体により、 CCL7が部分的に流体誘導性シアストレスの保護作用にも関与していることが示唆された。またCCL7はエトポシド誘導性細胞死に対しても有効性が認められたが、TNF-α誘導性細胞死に対しては効果がなかった。CCL7とリセプターを共有しているCCL2は流体誘導性シアストレスには応答しないものの、 TNF-α誘導性の骨細胞死に対してもより効果的な保護作用 (1x10-9M) があることが確認された。

次にCCL7の保護作用効果に関与するシグナル伝達系について検討を行った。以前我々は、β-cateninシグナル伝達系が骨及び骨芽細胞に対する流体誘導性シアストレス保護作用において重要な役割を担っていることを報告した。そこでCCL7も β-cateninシグナル伝達系を活性化するかどうか検討し、GSK-3のリン酸化及び β-cateninの核移行がCCL7により促進することを明らかにした。更にデキサメサゾン処理により骨及び骨芽細胞の新しい保護因子であるCCL7及びCCL2が抑制されることも示した。

グルココルチコイドは多くの炎症や自己免疫疾患に対しての第一選択肢であるが、続発性骨粗鬆症を惹起することがよく知られており、骨細胞死の増加に伴う骨の脆弱性の亢進が一因と考えられている。グルココルチコイド誘導性の骨細胞死に対して選択的な効果が確認されたCCL7は、新たな治療薬として期待される。また骨の恒常性維持に運動が果たす役割の重要性も本研究により再確認された。

北瀬 由紀子

著者コメント

徳島大学歯学部からミズーリ州にあるミズーリ大学カンザスシティー校歯学部にポスドクとして Lynda F. Bonewald 先生の研究室に留学をさせて頂いたご縁で、現在はシニアサイエンティストとして先生のもとで基礎研究に励んでいます。本研究は当初、MLO-Y4の細胞培養液に破骨細胞を誘導する活性が認められたことから、流体誘導性シアストレスに応答する骨細胞由来の破骨細胞誘導因子の発見を目的として始められました。残念ながらCCL7は細胞培養液中の破骨細胞誘導因子ではないことが確認され、それではどのような機能をCCL7が有しているのかという新たな疑問に答える形でこのプロジェクトが進行しました。今後は骨と筋肉とのクロストークという観点から新たな研究を進めていきたいと思っています。(UMKC, School of Dentistry, Department of Oral and Craniofacial Sciences・北瀬 由紀子)