日本骨代謝学会

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Runx2-Iは特異的N末端アミノ酸配列非依存的に膜性骨化を制御する

Runx2-I Isoform Contributes to Fetal Bone Formation Even in the Absence of Specific N-Terminal Amino Acids.
著者:Okura H, Sato S, Kishikawa S, Kaneto S, Nakashima T, Yoshida N, Takayanagi H, Kiyono H.
雑誌:PLoS One. 2014 Sep 22;9(9):e108294."
  • Runx2
  • アイソフォーム

佐藤 慎太郎
(左から)清野宏 東京大学医科学研究所炎症免疫学分野 教授
大倉英明 東京大学医科学研究所炎症免疫学分野
佐藤慎太郎 東京大学医科学研究所炎症免疫学分野 助教

論文サマリー

骨形成のマスターレギュレーターである転写因子Runx2の欠損は、骨石灰化不全という重篤な表現型を示す。この遺伝子のハプロ不全が鎖骨頭蓋異形成症の原因であると同定されて以来、数々の研究が行われてきたが、近位(P2)、遠位(P1)それぞれのプロモーターにより転写制御を受ける主要な2つのバリアント(Runx2-I、Runx2-II)の個々の役割については不明な点が多かった。とりわけ、ゲノム上の遺伝子配置の問題から遺伝子改変マウスの作製が困難であるRunx2-Iについては、もう一方のバリアントであるRunx2-II改変マウスを用いた間接的な解析がなされるにとどまっていた。

今回、我々はRunx2-Iに焦点を当ててその機能を探るため、Runx2-Iの翻訳開始コドンを停止コドンに置き換え、このアイソフォームの発現を特異的に阻害したマウスの作製を試みた。改変アレルのホモ接合型マウス(Runx2-Ineo/neo)はRunx2欠損マウスと同様、出生直後に100%の致死性を示した。Runx2-Ineo/neoマウスのRunx2発現様式を詳細に解析したところ、ゲノムに挿入したネオマイシン耐性遺伝子カセットが、Runx2の両アイソフォームとキメラ型の転写産物を生成していることが明らかになった。その結果、正常なスプライシングを受けたRunx2-IとRunx2-IIの存在量がともに減少し、骨石灰化に致死的な遅滞が生じていた。Runx2-Ineo/neoマウスはRunx2-IIに比べてRunx2-Iがより著明に減少するという、過去に例のないRunx2発現様態を示していた。Runx2-Ineo/neoマウスの胎生期における骨形成を解析したところ、内軟骨骨化に比べて膜性骨化に顕著な石灰化の遅れが認められたことから、過去の報告でも間接的証拠から予想されてきたように、Runx2-IはRunx2-IIに比べて膜性骨化により特化した制御を行っている可能性が示唆された。

さらに我々はネオマイシン耐性遺伝子カセットを除去したマウス(Runx2-ITGA/TGA)を作製した。Runx2-ITGA/TGAマウスはRunx2-Ineo/neoマウスでみられたような骨形成異常を呈さなかった。しかし、Runx2-ITGA/TGAマウスではRunx2-Iの翻訳開始コドンに変異を導入されたままであり、完全長のRunx2-Iは生成されないはずである。事実、胎児頭蓋細胞中に発現するRunx2タンパク質を、いずれのバリアントも認識する抗Runx2抗体でウェスタンブロットすると、Runx2-ITGA/TGAマウスではトランケートなRunx2タンパク質の発現上昇が観察された。この結果より、メチオニンをコードする2番目のコドンから翻訳されたトランケートRunx2-Iが発現したことで、完全にRunx2-Ineo/neの骨形成不全がレスキューされたことになり、Runx2-I特異的なN末端部の5アミノ酸が特異的な機能を持たないことが強く示唆された。

以上の結果より、2つの異なるバリアントを有するRunx2遺伝子であるが、重要なのはバリアント特異的なアミノ酸配列ではなく、異なるプロモーターによる時空間的発現制御であり、その制御を受けることによって生体内でRunx2-Iは膜性骨化に、Runx2-IIは内軟骨骨化により特化した働きをしているということが強く示唆された。

著者コメント

縁あってRunx2という遺伝子にたどり着いた我々にとって、骨解析はまったく初めての体験でした。それだけに、論文としてまとめるのは非常に大変でしたが、知れば知るほど骨形成、骨代謝の精巧な仕組みに魅かれていったのも事実です。今回の経験を機に、我々が専門とする粘膜免疫と骨代謝との関係についても、知見を深めていけたらと考えています。
マウスの作製に関して多大なお力添えを頂きました東京大学医科学研究所の吉田昭進先生、骨解析の素人であった我々に温かいご助言とご助力を賜りました東京大学医学部の高柳広先生と東京医科歯科大学の中島友紀先生に、この場をお借りして厚く御礼申し上げたいと思います。ありがとうございました(東京大学医科学研究所 炎症免疫学分野・佐藤 慎太郎)