日本骨代謝学会

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骨アパタイト配向性は再生骨において骨密度よりも強く骨強度を支配する

Degree of biological apatite c-axis orientation rather than bone mineral density controls mechanical function in bone regenerated using recombinant bone morphogenetic protein-2
著者:Takuya Ishimoto, Takayoshi Nakano, Yukichi Umakoshi, Masaya Yamamoto, Yasuhiko Tabata
雑誌:J. Bone Miner. Res. 2013 May, 28[5], pp.1170-1179, doi: 10.1002/jbmr.1825.

石本 卓也

論文サマリー

本論文は、骨欠損再生モデルを用いて、骨の主たる構成成分の1つである生体アパタイト・ナノ結晶の異方的な配列、すなわちアパタイト配向性(degree of apatite orientation)に注目し、(1) 骨再生過程ではアパタイト配向性の正常化には極めて長時間を要し、さらに、(2) アパタイト配向性が骨密度よりも強く骨強度を反映する指標であることを初めて明らかにした。

骨中でのアパタイトの配向化構造の存在、そして、種々の異なる機能を有する骨は、部位に応じて様々な配向化構造を有することが見出されていたものの(Nakano et al, Bone, 2002)、配向化構造と骨機能との関連性は未解明な部分が多い。アパタイト配向性の力学特性に対する寄与を、従来指標である骨密度と比較しつつ明らかにするため、アパタイト配向性と骨密度が連続的に変化するモデルとして、骨再生過程に注目した。ウサギ尺骨に20mm長さの完全欠損を導入し、欠損部に溶解性ゼラチンヒドロゲルを担体としてrecombinant bone morphogenetic protein-2 (rhBMP-2)を徐放した。著者らは、材料工学的な解析手法である微小領域X線回折法を駆使し、数10~100μmの領域での骨中のアパタイトc軸の配向度を定量解析する(Nakano et al, Bone, 2012)とともに、同一領域にて骨密度ならびに力学特性を表す重要な指標の1つであるヤング率を定量解析した。ヤング率は、ナノインデンテーション法により骨の時間依存的粘弾性変形挙動の影響を考慮・補正しつつ精密解析する手法を確立した。

骨欠損部は4週間で完全に骨充填され、アパタイト配向性、骨密度とも骨再生期間に応じて上昇したものの、その変化は独立しており、骨密度は12週間、配向性は24週間で正常値まで回復した。すなわち、アパタイト配向性の回復は骨密度に遅れ、非常に長期間を要した(図)。重回帰分析の結果、ヤング率の変動の70%以上がアパタイト配向性により支配されており、本モデルでは、アパタイト配向性が従来指標である骨密度よりも強い寄与を有することが初めて定量的に証明された。この結果から、アパタイト配向性は骨の力学的機能の説明因子として極めて重要であり、骨機能評価に不可欠であること、加えて、再生医学的手法が必ずしも骨の微細構造と機能の早期再生にはつながらないことが示された。本知見は、骨の量的修復と同時に、骨本来の異方性微細構造の正常化を意識した骨再建法の必要性を示唆しており、アパタイト配向性が今後の骨疾患治療薬剤やインプラントの開発における重要な指標となると期待される。

石本 卓也

著者コメント

著者(石本卓也:写真右)のバックボーンは金属・セラミックスを中心とした材料工学であり、骨代謝分野から見れば、完全な異分野と認識されると思います。しかしながら、こうした異分野からの視点が、新たな骨評価指標の確立へとつながり、JBMR誌に掲載されました。当初、“材料としての骨”にも“生体組織としての骨”にも無知であった私は、この分野の先駆者である中野貴由先生(大阪大学教授:写真左)をはじめとする共著者の先生方や、学会発表の際には骨代謝をご専門とされる多くの先生方からご指導・ご助言を頂きながら、最終的に本研究をまとめることができました。今後も、工学の立場から骨医学の発展に寄与できるよう、精進していく所存ですし、またそれが、工学の発展にもつながっていくものと確信しております。今後とも、ご指導の程、よろしくお願い申し上げます。(大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻・石本 卓也)