日本骨代謝学会

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血液透析患者の骨代謝異常による生命予後への影響解析:ケース・コホート研究の実例

Abnormal Mineral Metabolism and Mortality in Hemodialysis Patients With Secondary Hyperparathyroidism: Evidence From Marginal Structural Models Used to Adjust for Time-Dependent Confounding.
著者:Fukagawa M, Kido R, Komaba H, Onishi Y, Yamaguchi T, Hasegawa T, Kurita N, Fukuma S, Akizawa T, Fukuhara S.
雑誌:American Journal of Kidney Diseases 2014; 63(6): 979-987.
  • 血液透析
  • 骨代謝異常
  • ケース・コホート研究

木戸 亮
ケースコホート研究のデザインの概要(詳細は論文をご覧ください)

論文サマリー

 日本の二次性副甲状腺機能亢進症の血液透析患者において、骨ミネラル代謝異常(血清カルシウム値、リン値、副甲状腺ホルモン値;PTH)がもたらす死亡の絶対リスクを、3年間の前向きケースコホート研究(N = 8,229)で検討した。骨ミネラル代謝マーカーと治療との間に経時的に生じる「時間依存性交絡」を調整するため、統計解析手法に周辺構造モデルを用いた。

 血清リン値は代謝異常がより強いほど(高低双方:U字)死亡数の増多と関連するように見えたが、参照群(5.0~5.9 mg/dl)に比べて有意な過剰死亡を示したのは高リン値群のみだった(9.0 mg/dl以上の群で100人年当たり9.4人の過剰死亡)。一方、血清カルシウム値は値が高い程、死亡数の有意な増多と関連した。参照群(9.0~9.4 mg/dl)に比べ11.0 mg/dl以上の群では、100人年当たり5.8人の過剰死亡を示した。PTH値と過剰死亡の関連は認めなかった。以上から、本研究は、血清リンに加え、血清カルシウムもまた重要な死亡予測因子であることを確認した。

 血液透析患者の骨ミネラル代謝異常と死亡の関連を検討した複数の先行研究に対し、本研究では絶対リスク(死亡数の大きさとその差)を示す事で、生命予後に及ぼすインパクトの大きさを明確にした。また治療との間に生じる「時間依存性交絡」を考慮することで、従来の研究より真実に近い関連の大きさを得たと推測される。シナカルセト上市以降の臨床データを分析した初めての研究であり、最新ガイドラインや診療パターンに基づく現在の透析臨床を反映した本研究の結果は、幅広く実臨床に還元が可能である。現在の透析臨床において血清カルシウムに対するより一層の注視を喚起する質の高いエビデンスとして、医療者の診療行動の変容を促し、血液透析患者の生命予後改善に寄与することが期待される。

木戸 亮
骨代謝マーカー値と総死亡、過剰死亡数の関連

著者コメント

 本研究は、多施設共同前向き観察研究:MBD-5D(The Mineral and Bone Disorder Outcomes Study for Japanese CKD Stage 5D Patients)研究の主論文の1つです。3年間の長期に渡って3か月毎に臨床データの収集を行う本研究の実施にあたり、86に及ぶ日本全国の透析施設における多くの医療者や透析患者の皆様にご協力いただきました。改めて感謝申し上げます。
 本研究で用いたデザイン「ケース・コホート研究デザイン」は、コホート内ケースコントロール研究デザインの一種です。頻度の低いアウトカムに関して、全体集団を用いたケース・コントロール解析を(コントロールはランダム抽出)を行います。頻度の高いアウトカムに関しては、全体集団からランダム抽出した集団である「部分コホート」のみを用いて通常のコホート解析を行いました。検査値などの詳細なデータの収集は、部分コホートだけで行ない、それ以外の全体集団では最小限の項目(性年齢など)だけ調査をしておけば良いので効率の高い研究デザインと言えます。
 また本研究では、時間依存性交絡への対処として、周辺構造モデルという統計解析手法を用いました。このことは著者らにとっても新たな挑戦であり、理論そのものを理解するところから始まり、実際の分析方法から結果の正しい解釈の仕方まで、学習と議論を何度も積み重ねました。多くの協力者のお力を借りながら、長い時間をかけて細心の注意を払って作成された論文です。
 臨床現場に広く本研究の成果が浸透し、透析臨床の質の向上と、患者生命予後の改善につながることを期待しています。(稲城市立病院 健診センター・木戸 亮)