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非定型大腿骨骨折の骨折高位は荷重時下肢アライメントと関連する

The fracture sites of atypical femoral fractures are associated with the weight-bearing lower limb alignment
著者:Saita Y, Ishijima M, Mogami A, Kubota M, Baba T, Kaketa T, Nagao M, Sakamoto Y, Sakai K, Kato R, Nagura N, Miyagawa K, Wada T, Liu L, Obayashi O, Shitoto K, Nozawa M, Kajihara H, Gen H, Kaneko K.
雑誌:Bone, 66, 105-10, 2014
  • 非定型大腿骨骨折
  • 下肢アライメント

斎田 良知

論文サマリー

 非定型大腿骨骨折(Atypical femoral fractures, AFFs)は、大腿骨転子下から顆上部までの骨幹部に、単純レントゲンにてストレス骨折様の特徴的な像を呈する極めて稀な骨折である。近年、ビスホスフォネート(BP)製剤の長期使用との関連が推察されているが発生頻度が極めて低く、実態調査には一定の診断基準のもと症例報告を集積することが重要であることから、米国骨代謝学会(ASBMR)はタスクフォースを立ち上げ、2010年に診断のためのレポートを発表した。以来、世界中でAFFについての症例並びに研究報告が行われ、ASBMRタスクフォースは2013年に改訂版を発表した。
 われわれは、順天堂大学の附属病院並びに関連施設で過去6年間に発生したAFFs計10症例14骨折のレントゲンを確認し、通常型脆弱性大腿骨骨折(typical femoral fractures, TFFs) 計30症例との比較で発生頻度やリスク因子を、1:3のケースコントロールスタディーの形で検討した (J Bone Miner Metab, 2014, May 23. [Epub ahead of print])。
 この解析過程において、AFFsの特徴のひとつである両側発生例では骨折高位が左右で同じであったことから(図1)、解剖学的な因子と骨折高位の関連に注目し、AFF及びTFF患者の立位荷重時の下肢アライメント[外側大腿脛骨角(Femorotibial angle, FTA)]を評価した。

斎田 良知

下肢アライメントの指標として荷重時のFTAを用いた理由は、AFFの特徴である「外側骨皮質の肥厚や骨膜反応に続いて生じる横骨折」は、荷重時に大腿骨外側骨皮質に加わる引っ張り応力の集中部位と骨折部位とが関連することを示唆し、これが下肢アライメントと関連するのではと推測したためである。解析の結果、TFFsでは骨折高位とFTAに関連はない一方で、AFFsでは骨折高位とFTAが相関した(r=0.82, 95% 信頼区間; 0.49-0.94)。つまり、FTAが大きい(O脚)ほど、遠位でAFFが発生している事を示し、荷重時下肢アライメントがAFF発生部位に影響を及ぼすことを示唆する。さらに、転子下AFFsと骨幹部AFFsを比較すると、転子下AFFsでは膠原病合併例が多く、有意に若年齢で発生しており、ややX脚を呈していた。一方、骨幹部AFFsでは高齢でO脚や大腿骨彎曲を呈していた。このことから、X脚もしくはO脚のいずれでも、荷重によるメカニカルストレスが大腿骨の狭い部分に集中することが関連している可能性が示唆された(図2)。

斎田 良知

 以上より、AFF発生には、BPの長期内服のみではなく、骨脆弱性や骨リモデリング不全を来す様々な要因(膠原病などの合併症、ステロイド等の併用薬、加齢など)とともに、荷重時の応力が集中しやすい下肢アライメントもリスクとなる可能性が示唆される。
 脆弱性大腿骨近位部骨折の継続的な発生予防効果のエビデンスは、現時点ではこれら強力な骨吸収抑制剤を使用する以外には得られていない。従って、骨折抑制を目指すには、これらの使用は避けられない。近年、BP以外にも、脆弱性大腿骨近位部骨折の抑制作用を占める強力な骨吸収抑制剤が登場しているが、治験及び臨床レベルでAFFs症例が報告されている。従って、AFFsを不必要に懸念するのではなく、そのリスクを理解することが重要である。前駆症状からAFFsを疑った場合には、下肢アライメントを確認しAFFs発生リスク「部位」に注目することで、AFFsであるか否か、そしてAFFsの場合でも早期診断により不全骨折でとどめることができれば、患者の利益につながる治療が可能となる。

著者コメント

 大学院でみっちり骨代謝の基礎研究を行い臨床に戻って3年、救急外来で大腿骨転子下骨折の患者を診ました。転子下で真っ二つに折れた患者の、「左に転んだのにどうして右が折れているのでしょうか?」という問いかけに私は疑問を抱きませんでした。しかし、翌週アメリカ骨代謝学会でAFFsのシンポジウムに参加した私は、そこで猛省することに…。私が診た患者は“外傷なく”右大腿骨が骨折し、身体の支持が不能となり左に転倒したAFF症例だったのでした。その後、自分への自戒の念も込め、順天堂の関連病院におけるAFFsの発生頻度や患者の特徴をまとめJBMMに報告し、この過程で、本論文で報告したAFFsと下肢アライメントとの関連を見出しました。
 最後に、このデータをまとめるにあたり多大なるご協力を頂きました関連病院の先生方に深謝いたします。(順天堂大学医学部整形外科学講座・斎田 良知)