日本骨代謝学会

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セマフォリン3Aは感覚神経支配を介して骨量を制御する

Sema3A regulates bone-mass accrual through sensory innervations.
著者:Fukuda T, Takeda S, Xu R, Ochi H, Sunamura S, Sato T, Shibata S, Yoshida Y, Gu Z, Kimura A, Ma C, Xu C, Bando W, Fujita K, Shinomiya K, Hirai T, Asou Y, Enomoto M, Okano H, Okawa A, Itoh H.
雑誌:Nature. 2013 May 23;497(7450):490-3.
  • 骨形成
  • 感覚神経

福田 亨

論文サマリー

 Semaphorin 3A (Sema3A)は化学忌避物質として知られるセマフォリンファミリーに属する分子であり、発生過程において神経軸索伸長の方向性を決める分子として知られている。これまでの研究によって、Sema3Aを欠損させると異常な神経支配によって様々な発生障害が存在することが知られている。Sema3Aは神経系においても発現しているが、その機能は不明なままであった。そこで我々は、神経を由来とするSema3Aの骨代謝に対する作用について解析を行った。
はじめに、全身性にSema3Aを欠損させたマウスの骨組織を用いた組織学的解析の結果、これまでの報告同様の骨量低下が観察された。さらに、骨形態計測を行ったところ、骨吸収に異常は認められなかったが、骨形成の低下が観察された。そこでSema3Aによる骨芽細胞分化制御を詳細に検討するため、骨芽細胞特異的Sema3A欠損マウスを作製した。これら骨芽細胞特異的Sema3A欠損マウスの骨組織を解析したところ、骨量の低下は観察されず、骨形成にも変化は認められなかった。以上の結果から、全身性Sema3A欠損マウスで観察された骨量の低下は骨芽細胞を由来とするSema3Aの作用によるものではないことが推察された。Sema3Aは神経系においても発現が認められる。このため、我々は神経特異的Sema3A欠損マウスを作成し、骨組織の解析を行った。その結果、全身性のSema3A欠損マウスと同様、骨形成の低下に伴う骨量の減少が認められた。これらの結果から、全身性Sema3A欠損マウスで認められた骨量低下は神経を由来とするSema3Aの作用の低下であることが判明した。
これまでの報告により、Sema3Aは神経軸索形成を制御する因子であることが知られている。そこで、神経由来Sema3Aによる骨代謝制御を詳細に検討するため、骨における神経投射について検討を行った。その結果、全身性Sema3A欠損マウスおよび神経特異的Sema3A欠損マウスの骨組織では、感覚神経線維の投射の低下が認められた。一方、骨芽細胞特異的Sema3A欠損マウスの骨では神経投射の低下は認められなかった。また、薬剤投与により人為的に感覚神経投射を低下させたマウスの骨組織を解析したところ、骨量減少が認められた。
以上の結果より、神経由来のSema3Aが骨内への感覚神経投射を調節することで骨代謝に関わることが示唆された。骨内の感覚神経は単に感覚受容器として働いているだけでなく、骨量調節機能を有するという新たな骨代謝制御系の存在が明らかとなった。

福田 亨

著者コメント

 これまでの研究により、神経系が骨代謝を制御するという概念が定着してきましたが、それは主として交感神経系での話と認識されています。本研究も従来からの成果を基に始まった研究でありますが、骨の中にある感覚神経が重要であるという結果は私たち自身、非常に驚きました。論文を完成させるまでの道のりも遠く、Reviewerからの膨大な要求に答えるため、数多くの方にご協力を頂きました。この場をお借りして深く感謝申し上げたいと思います。今後はこれらの知見を基に、骨と神経の関係性を明らかにしていきたいと考えています。(東京医科歯科大学細胞生理学分野・福田 亨)