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Dlx5とMef2は新規Runx2エンハンサーを活性化し、骨芽細胞特異的発現を制御する

Dlx5 and Mef2 Regulate a Novel Runx2 Enhancer for Osteoblast‐Specific Expression
雑誌:J Bone Miner Res. 2014 Sep; 29(9):1960-9
  • エンハンサー
  • Runx2
  • 骨芽細胞

川根 徹也

論文サマリー

 Runx2は骨芽細胞分化、軟骨細胞後期分化のマスター遺伝子で、骨格形成を制御する転写因子である。このRunx2遺伝子を欠損させたマウスでは、骨形成が全く起こらない。Runx2にはP1およびP2プロモーターに由来する2つのアイソフォームが存在する。骨芽細胞にはいずれの発現もみられるが、P1由来のアイソフォーム(Type II)が主体で、骨芽細胞分化に重要であると考えられている。しかし、P1プロモーター領域を用いたレポーターマウスでは、骨芽細胞での発現を認めなかった。したがって、骨芽細胞での発現のための転写制御領域(エンハンサー)がプロモーター領域以外に存在することが予想された。そこで、このエンハンサー領域を検索しその機能を解析したところ、次のような結果が得られた。

 Runx2遺伝子のプロモーター領域からその200 kb上流を含むBACクローンを用いてGFPレポーターマウスを作成し、胎児における発現状況を解析したところ、Runx2の発現パターンを再現できた。この200kbを順次欠失させたGFPレポーターマウスを作製し、骨芽細胞での発現が著明に低下する領域を特定した。この領域には種間で保存された1.3 kbの領域が存在し、この1.3 kbにminimal promoterをつないだGFPレポーターマウスでは、骨芽細胞特異的にGFPが発現していた。

 1.3kbのなかで、特に種間のホモロージーが高い343 bp(343E)のエンハンサー活性を調べたところ、GFPレポーターマウスでは骨芽細胞でのみGFP発現がみられ、培養骨芽細胞株におけるレポーターアッセイではBMP2およびWnt3Aによって活性の上昇がみられた。また、343E領域のヒストンの修飾状況はエンハンサーの特徴を示していた。さらに、発現ライブラリーのスクリーニングにより、エンハンサー活性化因子としてSp7, Ctnnb1, Smad1, Sox5/6を同定した。

川根 徹也
図1 Runx2エンハンサーを用いたGFPレポーターマウスの蛍光顕微鏡像(胎生16.5日)
左:343E、右:343Eに変異導入

343Eの中にはエンハンサー活性のコアとなる89 bp(89E)が存在し、ここにDlx5/6とMef2cが結合し、さらにこれらにSp7, Ctnnb1, Smad1, Sox5/6およびTcf7がprotein-protein結合で複合体を形成することにより、エンハンサー活性が顕著に上昇することが明らかとなった。ChIPアッセイで、これら7因子全てが343E領域に結合していることも確認された。さらに、初代培養骨芽細胞にこれら7因子を強制発現させると、343E領域のヒストンアセチル化の亢進およびRunx2 mRNAの発現上昇がみられた。

川根 徹也
図2 Runx2エンハンサーのコア領域に結合する転写活性化複合体の模式図

 以上の結果から、Runx2遺伝子 P1プロモーターの上流約30kb付近にエンハンサー領域が存在し、ここにDlx5/6, Mef2c Sp7, Ctnnb1, Smad1, Sox5/6およびTcf7の7因子が複合体を形成して、Runx2の骨芽細胞特異的転写活性化が引き起こされることが明らかとなった。

著者コメント

 今回の報告は、Runx2遺伝子のエンハンサー領域を同定しその活性化機構を示したものです。このエンハンサーは脊椎動物間でよく保存されており、骨芽細胞特異的に活性があり、しかも驚いたことに骨形成との関連が議論されている転写調節因子のうちの7種類がこのエンハンサー上で複合体を形成することが解りました。この343bpから成る領域は、骨芽細胞特異的でかつ充分強いRunx2転写活性化能がありますので、この領域を含むレポーターコンストラクトやRunx2発現ベクターを利用することによって、新たな骨形成促進薬のスクリーニングや特定の骨疾患に対するジーンセラピー等の可能性が広がるものと思われます。(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科 生命医科学講座 細胞生物学分野・川根 徹也)