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妊娠Hypマウスにおいて高濃度に存在する血中FGF23は胎盤に作用し胎仔のビタミンD代謝を制御する

Elevated Fibroblast Growth Factor 23 Exerts Its Effects on Placenta and Regulates Vitamin D Metabolism in Pregnancy of Hyp Mice
著者:Ohata Y, Yamazaki M, Kawai M, Tsugawa N, Tachikawa K, Koinuma T, Miyagawa K, Kimoto A, Nakayama M, Namba N, Yamamoto H, Okano T, Ozono K, Michigami T.
雑誌:J Bone Miner Res. 2014 Jul;29(7):1627-38.
  • FGF23
  • ビタミンD
  • α-Klotho

大幡 泰久

論文サマリー

 近年、線維芽細胞成長因子23(FGF23)がリン代謝とともにビタミンD代謝の制御に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。FGF23が作用を発現するためにはFGF受容体(FGFR)とαKlothoが必要であり、αKlothoの発現組織がFGF23の標的臓器となると考えられている。これまでに我々はヒトの満期胎盤でαKlothoが発現していることを見出した。そこで本研究では胎盤がFGF23の標的となり胎児のビタミンD代謝制御に関わる可能性を検証した。

 ヒトとマウスの満期胎盤にFGF23シグナルを受容するために必要な分子が発現しているかRT-PCRで確認したところ、その発現パターンはヒトとマウスで類似しており、FGFR1-4、αKlothoが発現していた。ビタミンD代謝関連遺伝子では1αOHase、24OHase、ビタミンD受容体が発現していた。FGFR1とαKlothoは母体胎児界面を形成するsyncytiotrophoblastに発現し、共局在していることを免疫染色で確認した。またFGF23シグナルの標的として知られるEgr-1も同部位に発現しており、FGFRのリン酸化も確認された。これらの結果から胎盤がFGF23シグナルを受容しうることが示唆された。

 次にFGF23の胎盤や胎児のミネラル代謝に及ぼす影響を検討するため、Phex遺伝子に欠失を有し、ヒトのX連鎖性低リン血症性くる病(XLH)のモデルマウスとして広く用いられているHypマウスを実験に用いた。Hyp母体は高FGF23血症を呈し、Hyp胎仔はさらにその20倍も高いFGF23濃度を示した。Hyp胎仔の骨ではFGF23のmRNA発現が著増していたことから、胎仔の骨が高FGF23血症の起源であると考えられた。Hyp母体の胎仔の胎盤では、胎仔のgenotypeにかかわらず24OHaseとビタミンD受容体のmRNA発現が増加していた。Hyp母体の胎仔の胎盤に見られた24OHaseの発現増加がFGF23によるものか確認するため、WTマウス胎盤を器官培養し、Hyp母体血漿またはWT母体血漿を添加したところ、Hyp母体血漿添加により胎盤の24OHaseの発現が増加し、その効果は抗FGF23中和抗体の同時添加で消失した。この結果からHyp妊娠母体中の高濃度に存在するFGF23が胎盤に作用して、24OHaseの発現を増加させたと考えられた。さらにWT妊娠マウスを麻酔下にて開腹し子宮壁の外側から直接胎盤にFGF23を注入したところ、24OHaseと標的であるEgr-1の発現が増加した。一方、胎仔腹腔内にFGF23を投与したところ、胎仔腎臓におけるERK1/2のリン酸化は増強したが、胎盤における24OHaseの発現は変化しなかった。この結果から胎仔中のFGF23ではなく、母体側のFGF23が胎盤に作用していることが示唆された。最後にHypマウスの胎盤で認められた24OHaseの発現増加が、実際の胎仔のビタミンD代謝を制御しているか確認するため、ビタミンD代謝物の濃度を測定した。その結果、母体では25OHDに群間の差を認めなかったのに対して、Hyp母体の胎仔では胎仔のgenotypeにかかわらず、野生型母体の胎仔と比較して25OHD値が有意に低下していた。このことから、Hypマウスにおける胎盤での24OHaseの増加が、実際の胎仔のビタミンD代謝に影響を及ぼしていることが示された。これらの結果より、Hypマウスのように高FGF23血症を呈する病的な状態では、胎盤は母体のFGF23の標的となり、胎盤の24OHaseの発現を増加させることで、胎仔の25OHD濃度を低下させていることが示唆された。

著者コメント

 私は小児科医としてXLHのようなミネラル代謝異常をきたす疾患を診療するなかで、このような遺伝性のミネラル代謝異常をきたす疾患の胎児期、新生児期の病態に興味を持っていました。そんな折、周産期のヒトの臨床研究に携わり、胎盤にα-Klothoが発現していることを見出し、ミネラル代謝に重要な役割を果たすFGF23が胎盤に作用している可能性を示唆する知見を得ました。この知見をもとに、本研究ではXLHのモデルマウスであるHypマウスにおけるFGF23の胎盤での作用を報告することができました。本研究を遂行するうえで、実験内容についてのみならず、学会発表や論文の作成など幅広い指導をしていただいた道上敏美先生をはじめ、お世話になった諸先生方に深く感謝いたします。(大阪府立母子保健センター研究所環境影響部門・大幡 泰久)