日本骨代謝学会

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Indian Hedgehog シグナルはRunx2/Smadsと協調しX型コラーゲンの転写および発現を制御する

Indian Hedgehog Signaling Regulates Transcription and Expression of Collagen Type X via Runx2/Smads Interactions.
著者:Amano K, Densmore M, Nishimura R, Lanske B.
雑誌:J Biol Chem. 2014 Jul 15. pii: jbc.M114.570507.
  • Ihh
  • X型コラーゲン
  • 転写制御

天野 克比古

論文サマリー

 Indian Hedgehog(Ihh)は内軟骨性骨化において前肥大化から肥大化層に発現し、軟骨細胞の増殖や分化に必須であることが知られている。その分子メカニズムとしてIhh が関節周囲軟骨細胞に作用しそこでPTHrPの発現を誘導する事によって軟骨細胞が肥大化へと分化するスピードを調節(抑制)しているというフィードバックループ説が提唱されている一方で、PTHrP非依存的な機序も提唱されている。我々は、Ihhのin vitro における過剰発現が肥大化のマーカーであるX型コラーゲンの発現を誘導し、さらに軟骨細胞の石灰化を促進するというPTHrP非依存的な所見を以前に見出し、本研究ではその分子機序の解明に努めた。
まず、Ihhシグナルを担う転写因子であるGli1/2のX型コラーゲンプロモーターへの作用を調べた結果Gli1/2はプロモーター活性を促進させることが分かった。長さを段階的に絞ったプロモーターを用いた活性の測定実験やタンパクとプロモーターDNAの結合実験により、転写開始地点から250bp上流内においてGli結合部位を同定した。また、その周囲にRunx2およびSmadsの結合配列が確認されたため、Ihhシグナルとこれらの分子の関連について実験を進めた。Ihhにより誘導されるX型コラーゲンの発現は、Runx2によりさらに促進され、変異型Runx2により抑制された。さらにプロモーターアッセイやタンパクの免疫沈降実験、分子局在の検討により、Gli1/2とRunx2の協調が観察された。同様にGli1/2とSmadsの協調も見出され、クロマチン免疫沈降実験よりX型コラーゲンプロモーターにおいてGli1/2 とRunx2/Smadsが転写複合体を形成していることが示された。また、Ihhにより促進される軟骨細胞の石灰化もRunx2/Smadsと協調する経路により制御されていることが分かった。
以上の結果より、IhhはPTHrPへの作用に加えて、肥大化や石灰化といった軟骨細胞の後期分化を促進する役割があり、そのメカニズムとして転写因子であるGliがRunx2/Smadsと共役することを提唱した。さらに、Gli がSox9と協調しPTHrPの発現調節を行うことを示した過去の知見と合わせて、 IhhシグナルはSox9 またはRunx2/Smadsという協調因子を選択することにより、PTHrP依存的非依存的な機能の間で転換を行っていることが示唆された。

天野 克比古

著者コメント

 Ihhが前肥大化層という軟骨分化の中間地点に豊富に発現してPTHrPループにより後期分化へのゲートのような役割をしていることは良く知られていましたが、それだけではそこで分化が止まってしまうのではないかと疑問に思ったところから本研究は始まりました。またSox9とRunx2は共に前期および後期の軟骨分化に必須であることは周知でありますがお互いに拮抗する作用を持つため、この2つの分子をつなぐ分子機序が軟骨細胞分化を円滑に制御していると考えました。本研究は主にin vitroから得られた実験結果に基づいておりますが、今後はCre-LoxPシステムを利用したin vivoの手法を用いてIhh欠損に起因する表現型の解析をしていきたいと考えています。本研究は日本学術振興会海外特別研究員および上原記念生命科学財団海外留学助成リサーチフェローシップの助成の下、行われました。(Harvard School of Dental Medicine・天野 克比古)