日本骨代謝学会

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骨発生の過程で成長板軟骨肥大化・石灰化層におこるコンドロモジュリン-ⅠのN-末端部分の切断

The N-terminal cleavage of chondromodulin-I in growth-plate cartilage at the hypertrophic and calcified zones during bone development.
著者:Miura S, Kondo J, Takimoto A, Sano-Takai H, Guo L, Shukunami C, Tanaka H, Hiraki Y.
雑誌:PLoS One. 2014 Apr 7;9(4):e94239.
  • Chondromodulin-I
  • 血管新生抑制因子
  • タンパク質切断

三浦 重徳

論文サマリー

 軟骨は無血管で周囲からの血管侵入に強い抵抗性を示すAnti-angiogenicな組織で、骨は対照的に豊富な血管網により栄養されるPro-angiogenicな組織である。骨格の大部分をつくる長管骨は胎生期にまず軟骨性の骨原基として形成され、発生後期に至って初めて軟骨肥大化・石灰化領域に血管が侵入する。これを契機に軟骨は骨に置換される。一方、軟骨には1Mグアニジン塩酸で可溶化される血管新生抑制活性が存在する事が1970年代初頭から知られ、我々はこれを精製・単離してChondromodulin-I (ChM-I)であると同定した。抗ChM-Iペプチド抗体による免疫組織染色により、ChM-Iが軟骨性骨原基のうちでもAnti-angiogenicな領域(静止軟骨・増殖軟骨・前肥大軟骨)の細胞外マトリックスに特異的に局在し、肥大化・石灰化軟骨には存在しない事が示された。これはChM-I mRNAのin situ hybridizationの結果とも一致した。では、一旦細胞外マトリックスに蓄えられたChM-Iは軟骨細胞の肥大化と共に急速に、しかも跡形もなく分解されるのだろうか。これが本論文で取り上げた問題である。

 その後、組換えヒトChM-Iを抗原としてポリクローン抗体やモノクローン抗体を作成してウェスタンブロットすると、糖鎖修飾を受けた20−25 kDa ChM-Iの幅広いバンドと共に14 kDaの免疫交差バンドが現れた。そこで、免疫沈降によりこれを回収・精製し、N末端配列を解析したところChM-IのAsp37-Asp38が切断されて生じるN末端37残基を欠いたChM-Iフラグメント(14-kDa ΔN-ChM-I)であることが判明した。このdiacidic部位はV8プロテアーゼで切断できるので、組換えChM-Iから14-kDa ΔN-ChM-Iを調製する事ができた。そこで、VEGF-Aによる血管内皮細胞の遊走促進活性を指標にその生物活性を検定したところ、血管新生抑制活性を失っている事が分かった。

 N末端部分をエピトープとする抗ChM-Iペプチド抗体(N-ChM-I Ab)と20-25 kDa ChM-Iと14-kDa ΔN-ChM-Iの両方を認識するモノクローン抗体(hCHM-05)を用いて骨原基を二重免疫染色したところ、肥大化・石灰化軟骨層には14-kDa ΔN-ChM-Iのみが存在することが判明した(図)。即ち、肥大化・石灰化軟骨のChM-Iはただ1箇所Asp37/Glu37-Asp38のdiacidic部位で切断されることで不活性化された。当初14-kDa ΔN-ChM-Iの生成に骨原基への血管侵入に関与するMMP9やMMP13の介在も疑われたが、このdiacidic部位の切断活性はなく、ChM-I不活性化酵素の同定という新たなテーマが浮かび上がってきた。

三浦 重徳

著者コメント

 Chondromodulin-Iは、約20年前に開先生らが単離・精製されたユニークな軟骨由来血管新生抑制因子です。ユニークなタンパク質であるだけに、研究に必要な組換え体の調製や抗体の作製など全てを自前で用意しなければならないといった苦労がありました。長い間、よいモノクローナル抗体が作れませんでしたが、抗原に用いる組換え蛋白質の発現方法などを工夫してやっと有望なのが取得できました。新しいツールを手に入れることで生化学的なアプローチが可能となり、今回の研究成果に結びついたと思います。開先生をはじめとする共著者および研究室の皆様のサポートに心より感謝致します。(京都大学再生医科学研究所・三浦 重徳)